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映画・演劇のレビュー

吉田修一『悪人』

2007-10-15 21:26:35 | その他
 今までの吉田修一とはがらりとイメージを変え本格派推理物のスタイルで犯罪小説を見せてくれる。しかし、犯人探しなんかには当然ならない。

 21歳の保険外交員、石橋佳乃が、福岡市と佐賀市を結ぶ国道にある三瀬峠で殺される。犯人は長崎郊外に住む若い土木作業員、清水祐一。出会い系サイトで知り合い、痴情の縺れから殺害に至ったものと思われる。とても簡単な事件だと思われた。しかし、殺人に簡単も難しいもない。人の命が奪われてしまうのである。そこに軽い重いなんてあるはずがない。

 背後に複雑な事情が絡まりあっているわけでもない。とても単純な心の綾が、それぞれの中にあり、それを吉田修一はいつものように淡々と見せていくだけだ。なのにその静かな語り口にどんどん引き込まれていくことになる。

 読み始めた時には、当然のように殺人犯の男がタイトルロールの≪悪人≫だと思い読んでいた。しかし、読み進めて行くうちに、いったい誰が≪悪人≫なのだか、よく分からなくなっていく。吉田修一の描くこのシンプルでその実、奥が深いタイトルの描くものに取り込まれていく。

 このインパクトの強いタイトルはキム・ギドクの『悪い男』に匹敵する。タイトルがよく似てるというだけではなく、その強烈な衝撃が鋭く本質を射抜いていくからだ。

 彼女と彼は、誰に会いたかったのか。そして、誰と出会ってしまい、何を見ることになるのか。それがこの長編の中で掘り下げていかれることになる。久々に読み応えのある大作と出会えた。

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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TBさせていただきまいした。 (タウム)
2007-11-17 02:38:13
著者が並々ならぬ覚悟でこの作品に取り組み、できる限りの力を注いだという熱意が伝わってくるような本でした。
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