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映画・演劇のレビュー

『ボローニャの夕暮れ』

2011-08-18 07:37:20 | 映画
 ハートフルな家族映画だと思い見始めれば手痛い思いをさせられる。DVDのパッケージに騙されてはならない。だが、最後まで見たなら、やはり心暖かくされる。あのパッケージには偽りはない、と思わされる。これは隠れた傑作だ。こういう映画がひっそりと、誰に知られることもなく公開され、DVDにもなり、ひっそりと棚の隅にたった1本だけ忘れられたように並んでいる。まだ、発売されて間もないから、どこのビデオ屋にも置かれてあるはずだが、もう少ししたらきっと廃棄されたり、もっと誰も手にしない辺境へと追いやられていくのだろう。そうして、こんな映画がこの世の存在することすら忘れられる。悲しい話だ。

 監督は、なんと、あの『追憶の旅』や『いつか見た風景』のプピ・アヴァティ。彼の映画が日本で公開されるなんて、もう何10年振りのことだろうか。完全に彼の名前さえ忘れていたのだから、それも酷い。イタリア映画はここ20年ほどもうほとんど日本に入ってこない。ミニシアターですらなかなか公開されないのが現状だ。90年代以降も彼は精力的に映画を作り続けてきたことが、この映画の公式サイトにあるフィルモグラフィを見て知った。もちろん『ジャズ・ミー・ブルース』以降いずれの映画も日本では公開されていない(はずだ)。
 
 両親と恥ずかしがり屋の娘が主人公。父は高校の教師をしている。娘のことを心から大事に思っている。娘は父のいる学校に通っている。母は綺麗で優しい。そんな3人家族の話だ。1938年。ボローニャ。

 ここまで娘のことを愛することが出来るか、なんて思ってしまう。「無償の愛」なんて平気で書けるほどこれは簡単なことではない。親バカと言うにはあまりに一生懸命すぎる。病気ではないか、と疑う人だっているだろう。これはやり過ぎだ。だが、彼はその姿勢を最後まで貫く。周囲からどう思われようとも気にもしない。戦争だってものともしない。ただ一途に彼女幸福を祈る。そのためなら、なんでもする。優しい妻がいて、暖かい隣人(というか、生涯の親友!)がいて、内気だけど、可愛い娘がいる。誰よりも幸せな家族だった。だが、父親のおせっかいから、とんでもない事件に巻き込まれる。というか、娘がその事件の当事者となる。

 彼女ははたして心を病んでいたのか。人間はそう簡単に殺人を犯したりはしない。なのに、彼女は親友を簡単に殺してしまう。自分の恋人を取られたと思い込んで。だが、彼は恋人でもなんでもない。ただの女たらしで、親友と出来ていた。そのことを一途な彼女は恋人の裏切りとは思わず、親友の罪だと思う。そして、犯行に及ぶ。殺してしまうのだ。この極端な行為はやはり精神に異常があると思って間違いない。映画はほのぼのした家族愛を描いたホームドラマから一転する。

 自分の心を偽って生きる。外からは見えないし、隠したまま幸せそうに生きる。そんな夫婦の物語だ。涙ぐましいばかりの誠実さである。だが、娘にはそれがちゃんと見えてしまう。母は本当は父のことを愛していない。その事実を知り(誰に教えられたわけでもないが、確かに感じてしまう)心痛める。母を恨むのではなく、父に肩入れするでもない。ただ、ひとり、心を閉ざして、人とはうまく付き合えない娘を演じる。優し過ぎる父の心遣いがあだになり、彼女は自分を見失う。

 彼女は事件によって拘留され、家族と離され、ひとりになり、本当の自分をみつめることとなる。映画は、このばらばらになった家族の長い長い歳月と、その心の旅を描く。3人がぶつかり合うことはない。戦争を挟んでそれでも変わらない家族の愛が描かれていく。痛い映画だ。不器用で、でも、誠実なこの3人の生き方が心に沁みてくる。 

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