
益田ミリの自伝的エッセイ風小説。誰にでもあった小学1年生だった頃。その一年間の日々の思い出を綴る。でもそれは懐かしい思い出の記録(記憶)ではなく、まるで今、初めてそこにいるように鮮やかな時間。その日、その瞬間の数々が短いエッセイとして綴られていく。
春から始まり冬までの日々のできごと。「大人になれば今日のことを忘れてしまうのかな。」という冒頭の一文から一気にこの世界に引き込まれていた。ページを繰る手が止まらない。そこには6,7歳の少女の目線から感じたさまざまなことが短い文章で描かれていく。まるで1年生になったばかりの女の子の日記のよう。ところどころにさしはさまれるイラストも素晴らしい。まぁ、彼女の本職はイラストレーターですから当然かもしれないですけど、パステルカラーで描かれるイラストと本文が呼応していき、小さな少女の世界が広がるのが素晴らしい。
なんだか夢中で読み進めていくことになる。そしてあっという間に読み終えてしまった。あまりに惜しくて実は途中で少し休憩を入れてしまう。でも、すぐにまた本を手に取っていた。最後の冬の部分を読むときにはあえてスピードを落とした。読み終えるのが寂しくて。
僕の孫も今年1年生になった。そしてもうすぐ7歳になる。彼女のことをここに重ね合わせながら読んでいた。もちろん、ミリ(作者の名前ね)とリン(孫の名前ね)は違うけど、ふたりとも同じ1年生だ。そして、僕もまた昔1年生だった。そうなのだ。これはまるで自分までもが1年生に戻ったような気分にさせられる作品なのである。
初めての学校生活。不安と緊張は確かにある。でも、それ以上に毎日が新鮮で驚きと興奮がある。でも、ここには特別なことなんかない。それどころか、これは誰もが心当たりのあることばかりではないか。だけど、それがこんなにも胸にしみる。回顧的でもなく感傷的にもならず、さらりとしたタッチで描かれているのがいい。それは作者が子供目線を貫いているからだ。忘れていたことや、思いもしなかったことがここには溢れている。不思議だったことは不思議なままで描かれる。大人目線の説明はしないし、そんなこと必要ない。わからないこともわからないまま。やがてわかる日が来たらそれでいいし、来なくってもかまわない。それってなんて素敵なことだろうか。今、この時間を生きている。過去でも未来でもなく今がそこにある。そんな当たり前に心震える。