『植物少女』の朝比奈秋が芥川賞を受賞した。今回も不気味な話だ。ひとつの体でふたりが生きる。右と左が別々の人間でふたりはそれぞれ人格を持つ。まるでエンタメSF小説のような設定から始まった。
いや、まず、その前にお話は彼女たちの父親の話から始まる。父は伯父の体の中で生まれた。もともと3人で生まれてきたが、体はひとつしかなかった。別々の体なら双子とか三つ子ということになるのだが。
この話の設定はかなり怖い。ひとりは死に,ふたりは生まれた。兄の体から生まれた弟が主人公たちのふたりの父親である。やがて、ふたりの話が始まる。いったいどうなるのかとドキドキする。終盤、伯父の葬儀から四十九日までが描かれる。ここからどこに連れて行ってくれるのか、期待した。
ただ、これはお話の面白さで引っ張っていく作品ではなく、内省的な話の展開になる。(やはりこれは分類では「純文学」だね)エンタメならここから、のはずなのにそこで終わった。この後半部分は残念だ。ストーリーが進展せずに理屈っぽくなるからつまらなくなる。