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映画・演劇のレビュー

千早茜『グリフィスの傷』

2024-06-19 07:56:00 | その他

傷をテーマにした10の短編集。ほんの少しの痛みが、人生全体を象徴することもある。この傷みを抱えて生きていくしかない。いつの間にか、長い歳月の中でついた目には見えない傷をグリフィスの傷と呼ぶ。

 クラス全員から無視されて、そこにいるにもかかわらずいないものとして過ごしていた時間。竜舌蘭によって流した血。痛みはなかったが、それが原因で傷みから解放された。だが、果たしてそれは解放か? 黙殺された日々は1ヶ月半。高校を卒業して今は何もなく普通に暮らしいる。だけど普通の下には傷がある。
 
切断された5本の指。犬に襲われた傷だらけの顔。乱暴されて奪われた純潔。湯たんぽによる火傷。事の大小は問わない。それが心にどういう形で残るのかはわからない。
 
SNS、刺し傷、切り傷、刺青、手術。さまざまな傷痕の記憶。生きているだけでも傷を負う。最後の『まぶたの光』の救いが眩しい。僕たちはみんなさまざまな傷みを抱えて生きていく。さやちゃん先生のメスがあたしに光を与えること。そこには確かな希望がある。

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