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映画・演劇のレビュー

猟奇的ピンク『サイレントシティポップ』

2023-03-19 09:52:21 | 演劇

猟奇的ピンクの解散公演。ウイングで初めて見た作品がとてもいい感じだった。だから一昨年のウイングカップの作品も楽しみだった。本番は見れなかったけど、ゲネプロを見せてもらって、大満足した。ということで今回3回目となる。毎回まるで違うアプローチで新鮮すぎる芝居を提示してくれる。

今回は最後なのに、前回とは違いおとなしい静かな芝居だった。だが、今までで一番いい作品だった気がする。彼らは確実に進化している。僕は相変わらず勘違いしていて、今回の芝居のタイトルを「この街で、生きていく」だと思っていた。なかなかいいタイトルだし、そこにはある種の覚悟が描かれるのだな、なんて期待していたのだ。恥ずかしい。(チラシの下にはそう書いてあったからこれがタイトルだと思った。)でもタイトルは『サイレントシティポップ』。(こちらの方が小さく書かれているし。)まぁ、そのことはどうでもいいような話なのだけど、そんなことをさっき気づいて、なんだかびっくりしたのだ。
 
さて、この芝居の話だ。これは街で生きる人たちのささやかなスケッチである。まぁそれは大したことではないけど、結果的にこのふたつのタイトル(と、僕が勝手に判断した)が共鳴してこの作品を形作る。作品は日常の断片をコラージュした80分、30シーンからなる。だからワンエピソードが一瞬。でも忙しなくはない。それどころかとても落ち着いたタッチだ。そこではゆっくりと生活の中の一コマが切り取られる。どこにでもありそうなこと、どこにでもいそうなひと。さらりと彼らの姿、光景が提示された。故意に自分をトレースした同じようなシーンの繰り返しもある。街角の風景や、自宅の朝の光景。帰宅して寝るまでの時間や友だちとの時間。ありふれた毎日。ザッピングするようにシーンは一瞬で切り替わる。
 
背景のホリゾントに投影された映像。転換に提示されるこの色鮮やかなライブペインティングは水に色を混ぜて即興で作っている。そのさまざまなデザインはここに描かれる人たちだけではなく、さまざまな人間模様を象徴するように見える。
 
当日パンフにある役者の役名には、「日常を晒す女、歌舞伎町に掃いて捨てるほどいる女、信仰する女、ウルトラマンになりたかった男、立候補する男、愛を買う男」とあり、これが実にわかりやすいこの芝居の解説にもなっている。最後には「とある劇団の男」とあり、もちろん演じるのは作、演出の鶴山聖だ。7人のキャストが衣装をとっかえひっかえして7人だけではなく様々な人物やいろんな日の彼らを演じる。
 
そんなこの街で生きている人たちのなんでもないスケッチが、なぜかとても胸に沁みる。なんでもないことの積み重ねの中から垣間見える瞬間。人と人とがつながりあわない(!)エピソードばかりなのに、それは胸に痛い。

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