習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ACACIA』

2011-02-20 10:32:50 | 映画
 どうしてこんなにも詰めの甘い映画ばかりを作り続けるのだろうか。僕にはその理由がわからない。才能がないから、と切り捨てても構わないだろう。ミュージシャンとしても、作家としても成功したはずの彼が、こと映画だけは上手く行かない。作家の余技で済ますにはちょっとしつこすぎる。もういいかげん諦めたらいいのに、と思う。でも、何度となく挑戦する。諦めの悪い人だ。

 辻仁成の新作である。確か今はフランスで暮らしているはずだ。わざわざ日本に帰ってきて、せっせと映画を作り続ける。今回で5本目くらいだろうか。僕も諦めず彼の映画は全部見ている。最近はいくらなんでも劇場までは行かない。今回もDVDで見た。十分である。

 また、同じ失敗をしている。誰も彼に進言しないのだろうか。「あなたの映画はつまらない」と。自分でお金を集めて作っているから仕方なく付き合っているのだろうか。でも、それはいくらなんでもあんまりだ。そんなことは、周囲のブレーンがちゃんと教えてあげなくてはならない。映画作りにはすさまじい労力と資金が必要だ。本来なら失敗は許されない。なのに、彼だけは、許される。

 だいたい子どもを見ず知らずの老人に預けて男の所に行きっぱなしの母親なんて、ありえない。坂井真紀演じるあの女をあそこまでリアルではなく不自然に描く冒頭部分でこの映画はもう終わっている。でも、失敗はそこにとどまらない。思いつきだけで話を展開しているのではないか、としか考えられないような描写が続く。もういちいち指摘する気にもならない。

 これはアントニオ猪木演じる老人と少年との交流を描く映画だ。ほのぼのとした映画にすることも可能だが、辻仁成は一見突き放したようなクールなタッチを貫く、ように見せる。でも、そうではない。ちゃんとドラマを詰めることが出来ないだけだ。(本人はそうは思ってないのかもしれないが。)

 この空々しい映画を見ながら、それでもまだ、作ろ続ける彼の無神経さに感動した。ここまでくれば僕もずっと彼の映画を見る。いつの日か、彼が自分の映画を作り上げるその日まで。その日がなんだか楽しみだ。

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