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映画・演劇のレビュー

『愛しのアイリーン』

2018-10-07 08:26:24 | 映画

 

これまた過激な映画だ。吉田恵輔監督だから当然のことだが、主人公の行動が読めない。彼の内面が見えないことがこんなにも緊張感を与える。40代独身、スーパーの店員、地方都市、過保護の母親と同居。ぼけてきていた父親は映画の前半で死んでいる。彼がフィリピンに見合いをしにいっていたときだ。あるできごと(好きだった人が、誰とでも寝る女だった)から日本人との結婚を諦め、いきなりフィリピンである。2週間で結婚して日本に連れ帰る。古い村で、母親は断固としてお金を当てにした外国人女なんて認めない。しかも、彼女は純情そうに見えて、実はしたたか、打算的だったりもする。ふたりの愛の物語のはずなのに、なかなか彼女は彼に心を許さない。心を許したときには彼はもう死んでいる。そんなぁ、と思うけど、主人公があんなにも簡単に死んでいいのか。そんなこんなで最後は「悲恋もの」になるのだけど、それもなんだかなぁ、なのである。

 

映画は、このストーリーから想像できるようなハートフルコメディとは隔絶した、お話が読めない怒濤の展開を見せる。それにしても何一つ文句も言わないで無表情なままの主人公、安田顕が怖い。何を考えているのかわからないくせに、いきなり想像もしないことをする。そんな彼を中心にしてとんでもない奴らばかりが出てきて、でも、彼らなりには誠実に生きている姿が描かれる。そんなアンバランスな安定感が2時間17分の長尺として描かれる。

肯定は出来ないけど、否定もする気はない。だから見ていて、なんだか落ち着かない。様々な社会問題(お話自体は「少子高齢化」「嫁不足」「外国人妻」「後継者問題」等々、なんでもござれの世界だ!)をてんこ盛りにしながら、予想する地平を簡単に裏切り続けていく悪意のようなドラマ展開に魅了される。納得いかないことの連打に辟易しながら、このなんだかこのわけもなく悲しい映画にあきれながらも感動する。どんどん落ちていく感覚が素晴らしい。


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