とても興味深い芝居になった。本当ならこれで成井豊みたいな甘くて胸キュンの芝居が作れる。なのに、これはそういうおしゃれなものから程遠い、暗くて重いばかりの芝居になる。作、演出の森岡琢磨は、このスタイリッシュな作品を、軽やかさかは無縁のものとして作ろうとした。故意にそういう作り方をしている。
最初はそこまで、ではなかった。なんだかわからない女が出てきて、自分の人生をやり直しますか、なんていう提案をする。くだらない友人たちとのつまらない毎日。彼女はどんどんドツボにはまっていく今の自分の人生をリセットさせることが可能だという。そんなばかな、と思いつつも、別に失うものは何もないから、彼女の提案に応じる。すると、新しい可能性がそこに始まる。だが、なんか、違う。リセットにリセットを繰り返すうちに、何が何だかわからなくなる。
よりよい人生を求めて修正を繰り返すが、何をどうしても、どこかで問題が生じる。やがて、収拾がつかなくなる。
ストーリー自体はありきたりだ。だが、予定調和すれすれなのに、そうはならない。パラレルワールドものなのだが、もうひとつの現実を通して、最初にあったとんでもない現実が愛おしいものになっていく。(これもまた予定調和なのだが)くだらない、どうしようもない友人たちがなんだかとても愛おしい。そこで彼らと生きていたいと願う。これもまぁよくあるパターンなのだ。「やっぱりおうちが一番、」って感じの。だが、そこにあるのは安心ではない。自分が選んだ最悪の選択も、(それが最悪なのか、どうかはまだわからない)それが自分の人生ならばいいではないか、と思う。
芝居全体のデザインが重くて暗いから、この予定調和が安心にならない。そんなこの微妙に狂った世界がこの作品の魅力なのだろう。常識的なところに収まるのに居心地の悪さが残るこの作品の不条理感がなんだか心地よい。
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