習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

上田岳弘『ニムロッド』

2019-05-06 14:47:21 | その他

時間の許す限りたくさんの本を読んでいる。その感想をここにも書いておきたいと思いつつも、映画や芝居で手一杯で小説は後回しになり、結局書かないで終わるというのが最近のパターンなのだが、これだけはまず書いておこうと思った。衝撃的な作品だった。なんなんだ、これは、と思った。

第160回芥川賞受賞作品なのだが、そんなことはどうでもいい。それどころか、最近の芥川賞作品はつまらないものが多いからどちらかというと敬遠してもいいところなのだが、これはすごい作品だった。一気に終わりまでノンストップで読み切ってしまった。まぁ、それほど長い作品ではないから、読み切ることは苦にはならない。だが、問題はその内容である。これは僕の手には負えないから、この文章はこの作品のレビューにはならないだろうけど、今、自分の感じたことの一端だけでもここに書き記しておこう。

難しい小説だというわけではない。思いのほか、読みやすい小説だった。だけど、扱う問題とそのアプローチである。情報化社会に鋭いメスを入れるとかいう、お決まりの陳腐な感想はいらない。文学は時代を映す鏡ともなる。今、これから、という時間の中でこの作品が描く問題はどういうポジションを獲得することになるのだろうか。これはよくある近未来小説ではなく、今の気分をドラマ化している。生きている実感がどんどん希薄になる中で、自分が自分であるためには何が必要となるのか。不安だらけの現代にあってその先がここには見え隠れする。バーチャルな空間でリアルに生きるという倒錯した現実を受け入れることで、僕たちは実体のない「何か」へと変貌を遂げるのか。では、その「何か」って何? 

自分という実態がどんどん希薄なものになる。主人公が恋人とも唯一の友人とも切れてしまうことで、孤独になる、とかいう常套的な言葉では言い表せない世界へと放り出されるラストの衝撃。では、これからどうすればいいのか。そんなことへの答えなんかここには一切ない。空漠とした目の前にはサーバー音のみがこだまする。飛行機の影なんか最初から見えない。もちろん、その飛行機は飛ばないし。(駄目な飛行機コレクション、だもんね)


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