
懐かしいだけでなく、これは心から共感のできる作品だった。鴻上尚史の自伝的小説(ほぼ自伝)である。彼と僕とは、知らなかったが、ほぼ同い年だった。(彼が1つ年上) もっと上だと思っていたから意外だった。だから同時代を生きたし、これからも生きていく。
まず、最初の誕生から両親を看取るまでを描く表題作が、数年前の僕の体験と完全に被っていて、胸に沁みる。母を亡くす前後のことだ。鴻上は両親をほぼ連続でなくした。最後はコロナ禍が重なり会えないことやら、いきなりの急変も含めてまるであの頃の悪夢が再来した気分で感情移入させられた。みんな同じようなことを経ているのか、と思う。親の介護から看取りまで、大変さは大小があるだろうが、変わらない。実家の処分の経過まで、まるであの頃の僕がそこにいる気がした。
さらには後半、大学時代を描く『東京都新宿区早稲田鶴巻町大隈講堂裏』。これにも参った。早稲田に入って演劇部に所属した頃のドキュメンタリーだ。もし僕が東京の大学に行っていれば、同じ時、同じ場所に彼と居たかもしれない。彼は1年浪人したから同じ年に大学1年になっているのだ。しかもやっていることも重なっている。僕は演劇部には入らなかったけど、芝居が大好きで、芝居ばかり見ていた。(映画はそれ以上だったけど)高校の後輩の大竹野正典が芝居を始めたから、その手伝いもして芝居作りにも少しだけ関わった。ここには「もしも」がある。あの時東京に行っていれば体験していたかもしれない人生。もちろん僕には鴻上さんのような才能はないから埋もれて消えていただろうけど、幻の名もないもう1人の僕がそこにはいる。ドキドキしながら、まだ誰でもない鴻上さんの姿を追いかけていく。
だから後半で「第三舞台」発足のお話になると、少しつまらなくなる。成功した人の美談になるからだ。だけど、彼は成功も失敗も包み隠さず見せていくことに徹した。それはエピローグともいうべき現在を描く短い『東京都杉並区XX2丁目4番地』を読めばわかる。劇作家として演出家として、さらには映画監督として、小説家、エッセイストとマルチで活躍する彼が小説という形で素直な心情をここに綴る。胸に痛い。