
こんな映画が作られる。『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシ監督がセバスチャン・スタンを主人公のドナルド・トランプに迎えて送るまさかの伝記映画。あの問題だらけの現役アメリカ大統領をどう描くのか、と興味津々で見たが、映画はあまりに当たり前過ぎてガッカリした。これではまるで興味本位の再見ドラマの域を出ない。
若き日のトランプがどんな人物だったのか、彼が現在のモンスターになっていく過程が描かれるけど、現在進行形の彼自身があまりに強烈過ぎて、映画が描くことはありきたりのことに思える。もちろん実在現役の大統領の悪業の数々を暴くというわけではない。彼を作った男とのお話だが、モンスターを制御不能になっていく過程が描ききれなかったのが敗因。これはフランケンシュタインのお話と似ているな、と思ったのは新鮮な驚きだが。
この作品自体はもちろん悪くはない。だが、あまりにセンセーショナルでただの際物映画になったのは残念だ。客観的にあの男を描くには今はまだ生々しすぎた。そっくりショーをしたいわけではないのに、それに近いものになってしまう。それは不本意だろう。
トランプというモンスターが何故生まれたか。彼を支持することで世界がどうなっていくのか。世界崩壊への序曲を招いたものは何だったのか。映画はそんな核心には迫れない。当たり前だろう。現実が今進行している現状の中で、近未来映画として2025年より先を描くことはできないし、今は現実の後追いにしかならない。ラストシーン、トランプが見つめる未来には何が見えているのか。それが一番気になった。