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映画・演劇のレビュー

『七人樂隊』

2023-01-08 11:06:03 | 映画

関西では最終上映になるであろう日にようやく見に行く。オムニバス映画はあまり期待できないけど、このメンバーが「今、香港を描く」という企画に込められた意図が明確で、だからもしかしたらと期待したのだが、これが期待以上の作品で感動した。昨日、香港の若い作家たちが匿名で作った(実名を出せない、名乗れない!)ドキュメンタリーの傑作『理大囲城』を見た直後だから、この香港で生きてきて香港映画界を牽引してきた香港を代表する老練のベテラン監督たちが哀惜の念を込めて作った劇映画が、今(これからも!)香港で生きる若者たち(若手監督たち)へのアンサーソングのような立ち位置に思えて、胸にしみた。

7人が作るさまざまな映画はその七色がひとつになって香港への哀悼であり、応援歌でもあるのかと思えた。60年代の過去から未来まで7つのまるでタッチが違うお話は、過ぎし日の感傷に浸るだけではなく、この先の困難な時代に向けてのメッセージでもある。もちろんこれまでだってずっと困難な日々の連続だったはずだ。1997年の中国への返還も新しい歴史の始まりではあったかもしれないが、不安な時代への幕開けでもあったことは明白だろう。そして今、香港は以前の香港ではなく、中国政府の思惑に左右される恐怖の時代に突入した。自由が奪われ、混沌とする日々の中で彼らの今がある。それでも彼らは香港を去らない。ここで生きてきたし、ここで生きる。どんな時代になろうとも。そんな覚悟がこの映画の背景にはある。

たった15分ほどの短編連作の中で、静かに自らの想いを吐露する。冒頭はサモ・ハンの少年時代の時間を描く。師匠による厳しい修行の日々。いかにしてサボるかに腐心した頃のスケッチ。屋上の狭い空間でたくさんのまだ幼い弟子たちを束ねて彼はいる。そこがあの頃のすべてだったのだろう。ラストで今のサモ・ハンの姿が描かれる。彼は何も言わないでそこにいる。

アン・ホイの校長先生と子供たちの時間を描くエピソードもそうだ。校長は何も言わない。ただ毎日子供たちと向き合い仕事をする。若い女先生に駄々をこねて困らせる男の子たち。でも、校長は叱るのではなくまず彼らの言い分を受け入れる。その上で彼らに自分の考えを伝える。40年後の同窓会での再会は蛇足だが、敢えてそこまで描こうとした。甘いのは承知の上だ。

パトルック・タムのメロドラマはさすがにちょっと、と思うが、でも若い二人の刹那的な恋を情熱的に描き、これはこれでありだな、とも思う。山口百恵の『秋桜(コスモス)』が広東語で流れてきたのには驚く。しかもまるで歌詞が違うし。ユエン・ウーピンは老人と孫娘の数日間の交流を描く。カンフーの師範だった老人が今も元気で、大学受験のためにやってきた孫の世話を甲斐甲斐しくする姿が微笑ましい。ジョニー・トーが描くのは投資での成功を夢見る3人組の男女の会話劇。テンポのいいやりとりと、それ以上に凄いスピードで変化していく株の高騰下落。

そして故リンゴ・ラムの最後の作品となった『道に迷う』。これが今回の7本の白眉だろう。香港の街歩きなのだが、街の急速な変貌に対応できない初老の男。彼と待ち合わせをしている子供たちはなかなかやってこない父を待ち続ける。過去と現在が交錯する。若かりし日の妻との時間が愛おしい。(故人となったリンゴ・ラムの表記はクレジットではカッコ付けされている)

最後にはツイ・ハーク。彼は近未来の香港を風刺する不条理コメディをそこに置く。精神科の患者と医者とのバカバカしいやりとりで笑わせる。医者が患者で、患者が医者で。ほんとうの患者はどちらなのか。だが、確実に「その先」はそこからも見える。

7本の映画は、実によく考えて並んでいる。郷愁から怒濤の時代の再現、そして再び哀悼。皮肉を込めながら、この先の未来を憂うだけではなく、笑い飛ばす。大人だからこそできるスタンスが見ていて心地よい。現在の香港の実情をしっかり見つめながら、ただ憂うではなく、きちんと見守る。最後の2本を担当したリンゴ・ラムはハリウッドを拠点としたし、ツイ・ハークは中国本土を拠点とした。香港を去り、でも香港を大事にした。そこに今回参加できなかったジョン・ウーも含めて、みんながそれぞれの想いを抱きつつ、映画を作り続ける姿勢は尊い。


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