習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

藤野千夜『ネバーランド』

2011-02-21 23:16:07 | その他
 30歳の女性と3歳年下の彼。優柔不断な彼に業を煮やしてしまうのに、彼から離れられない。しかも彼には、自分以外にも同棲している彼女がいる。なのに、毎日のようにやってきて、食事を摂り、部屋でごろごろしている。だいたい週に何日も泊まっていくのだ。最低な男だと思う。

 「じゃ、いいかげん、その女とは別れてよ」というと、のらりくらりかわされて、挙句、その女のところにまた帰っていく。「それって騙されているだけじゃない」とみんなから言われている。自分でも確かにそうだ、と思う。なのに、彼を突き放すことはできないし、別れることもできない。なんかいつも腹を立ててばかりで、ストレスがたまる。でも、男前だし、時々、とても優しいから、ついつい許してしまう。最悪のパターンだ。

 読んでいるだけで、イライラしてくる。でも、こんな女の人ってたぶんたくさんいるのだろう。そしてこんな男も。彼女は自分たちのことを「バカップル」と呼んでいる。自覚はあるのだ。でもやめられない。30歳にもなって、こんなにも恋愛依存症になってしまうとは、と本の帯にも書いてある。確かにそんな感じの小説だ。90%以上ダメ男なのに、10%くらいは素敵だから、彼を見限ることは出来ない。自分の力で彼を変えたいと思う。自分なら出来る、と思う。そんなふうにして、女は泥沼に陥るのだろう。バカだと思うが、人間はもともとバカだから仕方ない。恋愛なんて理屈に合わない麻薬みたいなものなのだろう。合掌。

 実は、この小説のへんに醒めたところが気持ちよかったりもする。藤野千夜はこの2人のことをバカにしているのではない。もちろん肯定しているわけではさらさらないが。ただ、こういう2人をきちんと見放すことなく最後まで見守っていくのだ。その視線は優しい。いつまでも続く日常の中で、男と女は同じようなことを繰り返しながら、ほんのちょっとずつ変わっていく。その変化の中から、いつのまにか新しい「何か」が見えてくることもある。この小説はそんな瞬間を丁寧に描く。もちろんそこに到るまでの長い生活の描写を通して、である。へなちょこな2人が、それでも、やがて大きな一歩を踏み出すまでが確かに描き切れてある。だから、最後まで読むと、なんと感動的なのだ。

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