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映画・演劇のレビュー

『無名』

2024-05-11 08:09:00 | 映画

久々のトニー・レオン主演映画だ。彼は相変わらずの甘い微笑で静かに佇む。盧溝橋事件、1937年から46年までの出来事。上海からラストでは香港へ。国民党と共産党、裏で糸を引く日本軍。満州国建国から敗戦まで。大陸で日本がしたこと。そこにはスパイたちが暗躍する。二重スパイ、誰が敵で、誰が味方かもよくはわからないまま突き進んでいくしかない。

派手なアクション映画ではない。いや、反対に静かすぎるほど。話は複雑に絡み合って、しかも時制がわからないエピソードまでがさりげなく挿入される。後半同じエピソードが繰り返し前後がわかり話は明確になる。

ただ説明はないし、ぶっきらぼう。大事なところを敢えて見せないで、次につなぐことも。親切な映画ではない。わかりにくいのに、緊張感は充分なので飽きさせない。

親切じゃないから新鮮。クライマックスの主人公ふたりの戦いはかなり激しくそれまでの静寂を突き破る。抑えていたものが一気に爆発する。だけど、その後再び静寂が戻り、それまでと同じくらいに静か。日中戦争(というか、それはもう日米間の戦争になっているけど)は終わり、ふたりは香港にいる。カフェでコーヒーを楽しむ日常は戻ってくる。だが戦争は終わっても諜報機関は残り彼らの日常(スパイ活動?)は続く。

スタイリッシュでクールな映画だ。トニー・レオンはもちろんのこと新人のワン・イーボーもとてもいい。作品世界を体現する。こんなおしゃれでカッコいい中国映画が作られてちゃんと大ヒットしているって凄い。監督はチェン・アル。日本語のシーンもたくさんあるが、あまり違和感はない。森博之がしっかり映画を支えているからだ。冒頭近くで描かれる広州の焼け跡が強烈な印象を残す。戦禍を描く部分は最小限にして、だけどそこには手を抜かない。あらゆる場面で丁寧な仕事をしてあり、よくわからない緊張が持続する。これはこれで面白い。


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