習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ミッシング』

2024-05-18 17:34:00 | 映画
傷ましい話だ。6歳児がいなくなった。誘拐されて帰って来ない。犯人からの連絡もない。消息不明のまま時だけが過ぎていく。あの日、娘を弟に預けて推しの久しぶりのライブに行っていた。育児疲れの日々の息抜きだった。公園から自宅までのほんの短い時間で少女は消えた。

今年1番の期待作である。だけど、残念な映画になった。作り手の想いはわかるが、それが空回りしている。幼女失踪事件を軸にして、娘を失った夫婦の日々を描く。石原さとみは狂気の一歩手前の母を演じる。青木崇高の夫が彼女を支える。だが、失ってしまった大切なものを取り戻すことは出来ない。

誰が、何のために、こんなことをしたか。これは犯人探しの映画ではないことは明らか。ふたりだけではなく周りの人々の姿もリアルかつ繊細に描き出す吉田恵輔監督は石原さとみを中心に据えて事件の周辺を緊密に綴る。

事件の3ヶ月後から始まる。次に6ヶ月後。さらには2年後。全く捜査は進展しない。同じことの繰り返し。目撃情報に頼るしかないが、時間が経てば忘れられる。駅前の虚しいビラ配りが何度となく描かれる。ローカル局の密着取材もはかばかしくない。警察は何もしてくれない。

描かれる夫婦の日々の積み重ねがどこにも届かない。虚しさだけが募る。映画はあまりに単調でドラマチックな展開はなく、終わる。見終えた時には徒労感しか残らない。SNSのいいかげんで無責任な書き込みに振り回され、苦しめられる。そこには悪意しかない。

映画は誠実にふたりの置かれた状況を描いてくれる。だがそこには救いはない。石原さとみはヒステリックに夫に摑みかかる。夫はそれをサンドバッグのように受け止める。もちろん持っていき場所のない悲しみを抱えて。救いはない。そんな現実と向き合う。見終えて身も心もクタクタになった。ことばもない。


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