習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ぼくを探しに』

2015-04-29 16:39:35 | 映画

江國 香織の『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』を読み終えて直後、この映画を観たのは、たまたまだ。でも、その運命の不思議に心打たれる。5歳の子供の内面世界を描いたあの小説を読み、改めて子供時代って何だったのだろうか、と思っていた。そこにこの映画である。

なんと今度は、2歳の赤ちゃんが主人公だ。彼の途切れた記憶の秘密に迫る。33歳になった彼は、2歳の時から言葉を失った。それだけではなく、成長も止めた。だから今も2歳児のまま。体も頭も一応はふつうに育ったけど、心の方は、本当は、まだ、あの頃のまま。もちろん、人としての生活は普通にできる。2人の伯母の支えで、ピアニストとして生活もしている。だが、自分の力で意志的に生きるわけではない。生かされているだけ。

心を閉ざしているのだ。2歳の頃のショックを今も引きずっている。父親と母親を同時に亡くした。最愛の母と、最悪の父。でも、それは2歳児の目から見た世界で、ほんとうはそうじゃないのかも、しれない。彼の心は成長しないから、真相はわからない。そんな彼が偶然、ある女性と出会い、彼女の不思議なハーブの導きで、記憶の底へと旅することになる。

これは、ある種のファンタジーなのだが、彼が大人へと成長していく通過儀礼でもある。『アメリ』のプロデューサーが仕掛けた映画だから、とてもかわいいし、不思議な映像が満載でとてもキッチュな世界が描かれる。しかし、ただカワイイだけではなく、彼の閉ざした心がどういうふうにこじ開けられ、解き明かされ、やがては自分の両親のような素敵な夫婦(父親)になれるのか、までがちゃんと描かれる。冒頭のシーンとラストシーンの符合が素敵で、グランド・キャニオンに立つ彼を見たとき、涙が止まらない。でも、それは最高に幸せな気分の涙だ。こうして夢はかなう。

監督は『ベルヴィル・ランデブー』や『イリュージョニスト』で知られ(ているらしいが、僕は知らなかった)フランスのアニメーション作家、シルバン・ショメ。要チェック。



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