習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『手紙』

2006-12-09 11:02:15 | 映画
 前半は見ていて「なぜこんな話を映画にするのだろうか」という疑問が大きく、ちょっと退いてしまっていた。下手ではないけど、重いばかりで、暗い話を真面目に取り上げ、しかもお決まりのストーリーをなぞるだけ。かなりしんどかった。

 しかし、普通の映画ならもうここで終わり、と思わせるところから、この映画は思いもかけない粘り腰を見せて、今まで映画やテレビが描かなかった地平へと、僕たちを連れて行ってくれる。

 杉浦直樹の会長のワンポイントリリーフが映画全体をぎゅっと引き締める。兄の殺人によりずっと苦しめられてきた、それまでの主人公の人生の意味、そしてこの映画のテーマである<人の命を殺めてしまったことの責任はどう取るのか>ということまでもが一気に描かれる。そこでハッピーエンド。主人公の山田孝之が身近にいて彼を想い続けていた沢尻エリカを受け入れ結婚する、というお決まりの描写。に、見えたが、実はここからがこの映画のすごいところ。

 実は、ここから映画が動き出すのである。結婚後の子供を含めた彼らの苦しみ、そして、被害者の息子(吹越満)との6年を経た対決。さらには、死刑囚である兄(玉山鉄二)に対してどう向き合うかまで。ここまでを描くことが、この映画の目的だったと分かる。それまでの兄と弟の手紙のやりとりだけでなく、兄から被害者の息子への手紙を描くことで、この映画の核心が見えてくるという構造が見事だ。決して目を見張るような映画ではないがよく考えられた映画だ。そして、こんなにも真面目にテーマを突き詰めていく商業映画は珍しい。教育映画といっても通用するくらいだ。

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2 コメント

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杉浦直樹さんが素晴らしい (せっきゃん)
2006-12-15 22:04:26
ここへのコメントは初めてです。
よろしくお願いします。

杉浦直樹さん素晴らしかったです。
過去何かあったんだろうなと感じさせる存在感。

そして、実在の電気店が決して宣伝になるとは思えない設定の場面に堂々と出てくることの説得力。

圧倒的でした。
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確かにそうですね (hirose)
2006-12-16 23:47:25
杉浦直樹の存在感が映画に説得力を与えていたと思います。ワンシーンで映画の方向性を決定してしまうなんて凄すぎます。
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