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映画・演劇のレビュー

大島真寿美『三月』

2014-03-30 19:47:19 | その他
この小さな本(サイズが普通の本より少し小さくてかわいい)が描く6つの物語は、20年という歳月の重みと、その間に起きた2つの大きな災害を通して、我々が生きた(生きる)時代の意味を問い質す。6話からなる短編連作集だ。それぞれのエピソードが、6人の大学時代の仲間たちを主人公にする。阪神大震災と東日本大震災を体験した世代(要するに我々なのだが)が、震災の影響を直接受けたわけではないけど、でも、その痛みを共有することで、誰もが同じように生きていくことで感じる様々な問題を描き出す。

大学時代、ひとりの友達が死んだ。自殺なのか,事故なのか、20年の歳月を経て、改めて彼の死はなんだったのかを考えてしまう。どうして今頃思い出したのか。どうして、こんなにもそのことが気になるのか。自分でもよくわからない。だから、あの頃を共有した仲間に問い質す。連鎖的にそれぞれのお話は、あの頃の友人たちをあぶり出すことになる。そして、再び、みんなが再会する。それぞれの20年を噛みしめる。これはそんな短編連作だ。そこで何かが起こるわけではない。ただ、彼女たちの今を描く。みんなそれぞれの問題を抱える。40代に突入して、人生は決して順風満帆ではない。どちらかというと、不安ばかりだ。置かれた状況はさまざまで、比較なんかできない。ひとそれぞれの人生を較べてみても何の意味もないけど、同じ時代、場所を共有して生きたから、お互いのことが気になる。

再会の3月。偶然から、みんなで集まることになる。(もちろん、そこには行けない人もいる)そこで、彼女たちは東日本大震災に遭う。地震と津波の恐怖にさらされる。自分たちが生きているここが、突然の出来事で、あっという間に崩れ去る。

 変わらない日常を生きてきた。今日の次には明日が来る。そして、年をとる。だが、この平穏な毎日がずっと続く保証なんかどこにもない。震災を描くことがテーマではない。だが、あの3月に地震と津波に遭遇した。みんなで会わなければ、しかも、わざわざあそこに行かなければ、そんな恐怖に遭うこともなかった。だが、再会の場所が東京はなく、そこだった。それは不幸なことではない。いつ、どこで、何があるかなんて、わからない。後であの時そうしていたらよかったと、悔やまれるばかりだ。だが、そんな後悔には何の意味もないことは誰もが知っている。

 3月の先には4月が来る。今、3月の終わりにこの小説をたまたま読んでよかった。ここに描かれるそれぞれが抱えるささやかな(あえて、そう言うことにする)悩みや苦しみと向き合い、誠実に生きている姿には勇気付けれれる。



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