
思ったほど、凄い映画ではなかったけど、新人のデビュー作としてはなかなかの力作だ。2時間13分という長尺を最後まで見せる。もっとコメディタッチになるのか、と思ったのだが、そうはならない。ただ、この話なのにシリアスだけで、押し通せるわけでもない。そんなこんなで、なんだか収まりどころがよくないから、見ていて居心地が悪い。
でも、それはこのお話の重さのせいなのだろう。なんとも救いようのないお話だ。冒頭で長男が自殺する。ショックで記憶を失った母親のために皆で嘘をつく。お兄ちゃんは生きていてアルゼンチンで仕事をしている、ということにする。
残された父親と母親、妹の3人。そこに母の弟、父の妹も混じって、嘘をつき通す。嘘の上書きはやがて破綻を来す。なぜ兄は死んだのか、ではない。30過ぎて、引きこもりだった彼が首をつって死んだのは事実だ。だけど、その後の残された家族の生活がこの映画の描くところで、そこには答えはないし、癒しもない。ただただつらいばかり。見ていて嫌になるばかりだ。でも、そこから目を離さない。
これは逃げ場のない、救いのない映画である。だけど、家族はこれと向き合うしかない。そんな覚悟が描かれていく。最後に光が見えるけど、それ(コウモリなんだけど)を光だとは言い切れないし、そんなものに縋るしか、出口はない。残された家族はつらい、なんていうことを描く映画なんか要らない。そして、この映画も、そういう映画じゃない。こんなにも答えが出ないままでいいのか、と言うと、いいのだ、と胸を張って答えられる。これはそういう映画なのだ。まだ若い野尻克己監督が、自分の体験をモデルにして、心の声と向き合ったとても誠実な作品。