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映画・演劇のレビュー

恩田陸『EPITAPH東京』

2015-06-02 23:01:22 | その他

「吸血鬼に導かれ、東京を彷徨う」という帯のことばから、SFタッチのホラーなのか、と思い、読むのが億劫だったけど、たまたま読む本がなかったのと、やっぱり恩田陸だし、という思いから読み始めたのだが、もう一瞬で虜になった。

タイトルにある「EPITAPH」とは墓碑銘のことらしい。読み始めて少ししたら説明がなされる。すごく気になったけど、作者が何も言わないから、調べなかった。これも後で知ったのだが、「東京にふさわしい墓碑銘とは何か」と帯に書いてあった。

それにしても、このなんとも不思議な小説。何なんだ、これは? でも、この世界に魅入られた。これは、SFでも、ホラーでもない。ただの町歩きのスケッチなのだ。東京だけでなく、大阪も歩く。歩きながら考える。この町がどうして今こうあるのか、昔はどうだったのかにも思いを馳せる。もちろん、この町の未来へも。だから、これは路上観察学の本でもある。筆者Kが、死者の痕跡をたどる日常が描かれる。そこに、自分を吸血鬼と名乗る不思議な男の姿が挟み込まれる。彼(吉屋、ヨシュア)は、年齢飛翔で職業も不明。彼のモノローグ部分は黄緑の紙で描かれる。というか、それだけではなく、この小説はビジュアルに様々な意匠が凝らされてある。赤い紙にページは本編のイメージを提示する挿画で、筆者Kが書く演劇の台本も挿入される。(そこは、紫の紙)『EPITAPH東京』は、彼女が書く台本のタイトルなのだ。

いくつものイメージが交錯しながらジャンル不明のおもしろさに、誘われて、この作品世界に取り込まれていく。3分の2ほど読んだところなので、これがどこに帰着するのかは現地点では不明だが、近頃こんなにも、何もないのにドキドキさせられる小説はなかった。この先も明快なストーリーはないはずだ。(そして、それでいい)このタッチの、この作品になら、どこに連れて行かれてもきっと満足する。

ちなみに、これも偶然だが、昨日、見た映画が、『シャドーハンター』という作品で、同じように都会の闇をテーマにしていた。こちらはヴァンパイアである。一応はアメリカ映画で、アクション映画で、大作なのだが、なんとなく、この両者には共通するものを感じた。

ここで描かれるのは人間世界に溶け込んでいる彼らと、人との確執だが、闇に潜む魔物というイメージが先行する。両者の戦いが描かれるのだが、それ自体がメインではない。とても力の籠った作品で、もちろんアクションシーンは満載なのだが、印象は、華やかなアクションではなく、ダークな作品で、地味。イメージ的にはこの『EPITAPH東京』に近い気がした。まぁ、なんとなく、だが。


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