習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

中脇初枝『わたしをみつけて』

2014-02-23 22:26:58 | その他
『神様のカルテ』の看護師ヴァージョン。でも、あの小説のように暑苦しいことはない。(あっ、あの小説を貶しているのではないよ! どちらかというと、褒め言葉ですから)少し暗すぎるのは中脇さんのパターンなので気にしない。医療現場ものは、読んでいて辛い気分にさせられる事が多い。しかも、これは捨て子の話でもあるのだし。

病院の前で捨てられていた、子どもが成長して、看護師になった。そして、たった一人で生きてきた。息を潜めて準看として暮らす。病院では、ただ生きていくためだけで、目立たないようにしている。そんな風にして11年の歳月が過ぎた。そこに、ひとりの女性が現れる。彼女は新しい師長としてこの病院に赴任してくる。いつも笑顔を絶やさない(でも、その笑顔は彼女の仮面でもある)この師長のもとで、彼女は変わっていく。

 自分はひとりではない。みんなに支えられて生きている。こんなふうに書くと、これはまるで単純なハートウォーミングのようだが、そうではない。ここには深い憂悶がある。自分に素直になれないまま、たったひとりで生きるしかなかった彼女のそれまで人生が色濃く滲み出る。

 これはそんな小説なのだ。彼女が変わる瞬間を感動的に描くのではなく、まだ、戸惑いながら、でも、このままではいけないとためらいつつも変化せざる得なくなる瞬間までが描かれる。その先の答えはいらない。

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