最初の『カレーの混沌』を読んだ時、僕もカレーを作ることにした。読書を止めて、昼ごはんの準備を始める。定番のジャガイモ、人参、玉ねぎにお肉はもちろんだが、それに冷蔵庫に入っている食材をどんどん入れることにした。読んだばかりの小説に影響されて、安直だが、楽しそう。まだ、スーパーは開いていない時間だから、しばらくこのブログでも書いていよう。
食を通して、心の傷みを和らげること。キッチン・セラピーは、そんなことでやってきた人を癒す。迷子に道を差し示す。森の中にある古い家。大きな台所。町田診療所は、食べること、作ることを通して、迷子を再生に導く。こんなバカなことで大丈夫か、と思う。だけど、こんなことが大事だとここに来ればわかる。身体の病いと心は連動しているから、美味しいものを食べて病いを癒す。治すのでない。まして直すなんて事ではない。キッチン・セラピーは町田診療所である。ここで町田モネは患者(お客)を迎える。
作ったカレーを食べた後、2話目を読む。さらに3話を読んだところで、よくある短編連作だね、と思う。だけど、それは凄い勘違いだとわかる。
最終章を読み始めて、違和感が広がっていく。今までとはまるで違う。最後はモネの話になるが、ここでも彼が主人公ではなく、ほかの人だ。彼の料理の先輩である李青の話だ。モネの双子の姉エミと彼の話。そしてこれまでの話はここに至るまでの前置きでしかなかったことが明白になる。もちろんここまでも独立した3話の優れた短編である。
だけど、これは短編連作ではなく1本の長編であり、この長編が一番描きたかったことは死んでしまったエミの話なのだ。コロナ禍の悪意が彼女を追い詰めて死に追いやる。コロナに感染して死んだのならまだ諦めはつく。だが、SNSの悪意ある書き込みが彼女を死に追いやる。(『この限りある世界で』同様に)
ラストは彼女の死から李青を立ち直らせる為にモネが始めたパーティ。みんなが集まってきて思い思いの料理を作る。みんなで作り食べることで、エミを見送ることになる。
多くは語らない。だが、みんなはわかっている。これは彼らは知らないエミと李青の為のパーティ。だけど、みんなは満足して帰る。いいパーティだったと。
とても意外で、あっと驚くお話。まさかのラストが胸に沁みる。