
久しぶりに『青木さん家の奥さん』を見る。これまで高校演劇も含めてたぶん10回は見ているだろう。もちろん南河内万歳一座による初演も見ているはずだ。もう30年も前の話なのであまり覚えていないけど、ただ凄まじいエネルギーの無駄使いのような芝居だったことははっきりしている。そして、それがこの作品の魅力であることも。
今回DIVEがこれを取り上げふたつの作品として仕上げた。実は今週は芝居を見れないはずだったので、これを見ることは不可能だったし、今更青木さんを見たいとは思わなかったというのも事実だ。あのバカバカしい芝居を見てもなぁ、と思っていたのだが、時間に余裕が出来たので見に行き、やはりバカバカしいな、と思った。
Bプロ(パンフにはBチームとあるが)は若手演出家の西田悠哉が手掛ける。きっとこれは彼が生まれる前に書かれた作品だろう。荒唐無稽なこの台本(もどき)を手にして戸惑ったのか、それとも快哉を叫んだのか。どちらかというと確実に後者だろう。反対に40代の中堅演出家であるAプロ、イトウワカナは戸惑ったようだ。(パンフの文章参照)当然のリアクションだ。その差異がちゃんと両者の作品には出ている。(イトウ版の感想は後日、書きます)
西田演出はある意味原点に忠実。勢いだけで突っ走る。深く考えないし、だいたい考えても意味はなし。この芝居自身に何の意味もないからだ。何度も言うがただただバカバカしいだけ。でも、そんなバカを全力ですると、なんだか爽快な気分になる。もしかしたらこれこそが演劇の意味ではないか、と思うほどに。体を動かし、全力でしゃべり、相手と向き合う。ゴールなんかには意味はないけど、ひたすらゴールを目指す。スポーツのような世界がそこには広がる。ゴールは青木さん家の奥さんだ。彼女のところに配達の品を届けること。ただそれだけ。新人さんにとっては青木さん家の奥さんが何者なのか、そんなこともわからないのに。というか、彼女は何者でもない。ただのお客様であり、きれいでやさしい、そんな女の人。
西田版で新人を演じるのはベテラン坂口修一だ。彼を中心に置き、彼を主人公にして芝居は展開する。座長である彼の周囲にまだ新人の5人の若手役者たちが従うという図式だ。(高橋さんはさすがに若手ではないけど)前半の伝票を巡るやりとりで5人がそれぞれ各自のキャラを明確にして独り芝居を見せる。冒頭の登場シーンも順番に5人が一人一人出てきて、自己アピールする。(Aプロを後で見たのだが、こちらはまるで違うやり方だった。Aプロは最初に新人が登場する。そこに順番に5人がやってきて絡んでいくというスタイルだった。)
後半の青木さん家への道のりと青木さん家でのやり取りのシミレーションはくどいくらい。でもそのしつこさが作り手のこの作品に込めた意気込みを感じさせる。どこまでこの無意味な芝居を引っ張れるのかへの挑戦だ。体力勝負。個人技で突き進む。悪くはないな、と思えた。ぬまたぬまこは得意のギターを抱えて披露するし、5人とも自分のキャラクターをちゃんと前面に押し出す。
そして芝居の要にはちゃんと坂口修一がいる。だから演出は安心なのだ。彼も得意のいじられキャラを前面に出し、5人との掛け合いアンサンブルでも見事に応える。こうして何も考えない芝居は90分ちゃんと走り抜ける。気持ちがよかった。今週大変だったけど、これをたまたま見られてよかった。