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映画・演劇のレビュー

はらだみずき『海の見える家 旅立ち』他

2022-12-21 11:10:41 | その他

今週も膨大な量の本を読んでいる。1週間で9冊ほどだ。その中にはすでに書いている今年一番の傑作長編『光のとこにいてね』や『過怠』という長編も含まれる。簡単にその2冊以外で読んだ本の感想を書き残しておこう。

児童書は2冊。魚住直子の『考えたことなかった』と佐藤まどか『雨の日が好きな人』。どちらも少し残念だ。お話の目の付け所は悪くないのだけど、展開のさせ方がよくない。猫がしゃべる。「おれはお前の未来だ」と。そんなばかなことが、というところから始まる。寂しい未来を取り戻すために今を見つめなおす。途中でじつは、というどんでん返しというか、ミスリードも含めて悪くはないけど、なんだか切実さがないし嘘くさい。(というか、こんなことありえないし、嘘だけど)やがて、祖父母の離婚騒動に巻き込まれてそこを解決するというお話になるのだけど、彼がそのことを通してどこに行き着くことになるのかをもっとしっかりと描いて欲しかった。後者も雨が好きだった姉との交流をもっとうまく前面に押し出して欲しかった。母親の再婚でできた新しい父と病弱でずっと入院している姉。生まれた頃からずっとベッドの中で暮らす姉との出会いを通して彼女がどう変わるのか。もっとそれが見たいのに消化不良。

「シリーズもの」の完結編が2冊。はらだみずき『海の見える家 旅立ち』とよしもとばなな『吹上奇譚 ミモザ』。どちらも第4巻で完結。一気読みではなく、毎回出版時に読んでいるから、それまでのお話を微妙に忘れていて、困る。読みながら思い出すけど、忘れたままかも。でもまぁいいや、と思うことにした。前者は、主人公が父の残してくれたこの海辺の家から出ていくまでが描かれる。彼はここでの生活を通して自分の生きるすべを見出していく。農業に生きるため、ここではなく新しい場所で、自分で、土地を手に入れ暮らそうとするタイトル通り旅立ちまでのお話。後者もまた同じ。美鈴の出産を通して墓守くんとミミはここで生きていくんだと決意する。

いしいしんじの童話集『あたらしい一日』は例によって不思議なお話。1日のこと、いろんなことが27の超短編で綴られる。御木本あかり『やっかいな食卓』は73歳の義母と同居することになる40代の女性が主人公。この小説が普通のこのパターンの作品と違うのは、義母がとてもよくできた人なのに、主人公がわがままで頑固という設定。嫁いびりではなく、どちらかというと姑いびりにすら思える頑なさから始まるのが面白い。だが、やがて食を通して(子供を介して)ふたりが心を通い合わせていくことになる。逆転しているのだ。2世帯住宅って最近はやらないけど、大家族のよさが改めて見直される時代が来ているのかもしれない。

もう1冊。彩坂美月『思い出リバイバル』。よくあるパターンの短編連作長編。自分の人生のなかでの1日だけをもう一度体験できるとしたら、という話。その日に映人という男が導く。この手のお話はもう手垢がついている。しかもあまりうまくないので、読んでいて乗り切れないけど、乗り掛かった舟なので最後まで読んだ。これは『木曜日にはココアを』『お探し物は図書室まで』の青山美智子の得意パターンだ。ストレートなファンタジーにすればいいのに、趣向を凝らしてリアルな設定にしたから随所で綻びだらけ。説得力がない話になった。新機軸を目指したのだろうが、難しい。


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