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映画・演劇のレビュー

沢木耕太郎『飛び立つ季節 旅のつばくろ』

2022-07-18 08:48:47 | その他

35編の短いエッセイ集だ。でも、なんだか短編連作のようになっているのが面白い。どこかに依頼されて連載したものを集めて一冊にしたものではない。(たぶん)沢木さんが日々の実感を綴った。コロナから3年、ようやく少しずつ日常に戻りつつある生活の中で、ようやく旅が可能になって、そこで彼がやれることから始めた旅の記録だ。

16歳の時、初めて東北へ一人旅をした12日間。あの時の記憶をたどる旅に出る。後期高齢者になる沢木さんが人生を振り返る、のではない。自由に今望む旅をする。それが東北への旅だっただけ。50年を経てあの時のあの場所がどうなっているか、記憶との齟齬。時代が変わり、今ではあのころの面影もないかもしれない。だいたい自分自身がもうあの頃の記憶をかなり失くしている。そんな中で、再び見る風景は彼にとってどんな意味をもたらすのか。なんだかドキドキするではないか。昔を懐かしむ懐古趣味ではなく、新しい発見がそこにはある。

今まで行く事が出来なかった場所。たまたま機会を失した場所。でも、今だから行ける。お話は会津への旅から始まる。さらには、東京近郊への旅。自宅周辺だとか、そして最後は日光への旅まで。なぜだか普通なら学校で一度は行っているはずの日光。でも、沢木さんは小中高校となぜか一度も行く機会がなかった。東京でずっと暮らしているにもかかわらず。余談だが僕も昨年初めて日光に行ってきた。沢木さんが見たところにほぼ同じような時期によく似たルートで行ってるなんて、なんだか笑える。大阪の小中高校でなら必ず行くはずの伊勢に妻がまだ行ってないというので、先月一緒に行ってきた。僕も小学校の修学旅行以来だ。夫婦岩に行ったのは覚えているけど、伊勢神宮の記憶はあまりなかったので、なんだか初めてのようで不思議な気分になった。

沢木さんは自由だ。思いついたらすぐに行く。沢木さんはなかなか執念深い。ずっと以前に気にかけたままの場所も忘れずにいる。だから、今になって初めてようやくそこに行く。ここで描かれるそんな旅のひとつひとつがなんだか新鮮だ。僕もまた明日にでも小さな旅に出かけよう。そんな気分にさせられる。

この感想のタイトルに、この本が『飛び立つ季節』というタイトルなのに、最初間違えて『旅立つ季節』と打ってしまった。一応訂正したけど、まぁ、どちらでもいいだろう。『深夜特急』から始まった僕の沢木さんとの旅が40年以上の歳月を経て、こんなところに辿り着いた。もちろん、この先もまだまだ旅は続く。


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