
宮崎大祐監督2020年作品。大阪アジアン映画祭のコンペにも出品された作品らしい。僕は彼の映画を今回初めて見た。今まであまり見たことのないタイプの映画だ。これもまた分類不可の映画だろう。Amazonはホラーに分類していたけど、これはさすがにホラーとは言えまい。
大阪を舞台にしたモノクロ映画。鶴橋コリアンタウンで暮らす在日朝鮮人の女性が主人公。彼女の日常が淡々と描かれていく。なかなか何を描くことが目的である映画か、わからないまま話は進む。というか、ここには明確なお話はない。ただ彼女の姿を追いかけていくだけ。鶴橋周辺だけでなく、十三や市内のさまざまな場所が描かれている。だけど観光映画ではない。それはまるで夢の中の光景のようだ。
何故モノクロだったのだろうか。今時モノクロは滅多にない。この映画の懐かしい風景は確かにモノクロームの効果である。まるで違う映画だけど、小栗康平の『泥の河』を想起させる。あれも大阪が舞台。昔の安治川沿いの光景が美しい映画だった。この映画の鶴橋周辺も、時代は違っても(これは現代を舞台にする映画である)古き時代の感触を残す町。
主人公は一度は夢を抱いて東京に行ったのだけど、夢は叶わないまま東京から戻ってきた29歳の女性である。今も夢を諦めきれないまま、大阪でアクターズ、スタジオに通い役者を目指す。
ある日、行きずりの男の部屋に泊まって関係するが、盗撮されてその映像がネットに流された。自分の裸が世の中に流出する恐怖。削除したくて男のところに行くが、彼を前にしたら何も言えない。意を決して再び行くと、そこにはもう彼はいない。もぬけの殻。いや、そこでは外国人たちが暮らしている。
果たしてあの男は何者だったのだろうか。ある日突然彼から電話がかかってくる。今もお前を見ている、と。今の時代監視カメラはどこにでもある。あなたの姿は知らない間に映像で撮られている。
彼女は自分を隠すために整形して別人になる。まるで安部公房の『他人の顔』を思わせる展開になる。だけどこれは不条理劇ではない。リアルな日常を晒していくだけ。彼女の日々の生活が監視カメラで撮られているって感じ。彼女は何も言わない。無表情で揺蕩うようにこの町を彷徨う。モノクロームはリアルを感じさせない。それはまるで夢のよう、そんな感触がある。白日夢のような悪夢。