預けていた車のキーを返してもらうため、新宿でヒサシと待ち合わせた。すると、仁が乱入してきて、飲み会になってしまった。
ゆで鮹のように真っ赤な顔になり、テンションが上がりまくりの仁。会は盛り上がり、気が付くと、茨城へ帰るのが厳しい時間になっていた。
「ウチに泊まればいいじゃないですか」
ヒサシが言う。なるほど、先日引越しが済んだばかりだから部屋は綺麗だろう。言葉に甘えるとするか。
新宿から大江戸線で練馬に出て、西武池袋線に乗り換える。結構遠いな。やがて大泉学園を過ぎ、やっとヒサシの部屋に着いた。
部屋は片付いていた。というよりも、あまり荷物が無かった。
ヒサシはおもむろにパソコンのスイッチを入れ、こちらを振り返った。そしてタバコを吹かす。
それが写真の姿だ。
他人を見下したような目で、「デスクの下にパソコンの本体がない」とか「このメモリを横にスカッと挿して、ブログを更新してる」とか、得意げに語り始めた。使っているパソコンがバイオなのを自慢したいようだ。
さらに寝室から逆説の日本史のハードカバー本を持って来て、しきりに読めと勧めてくる。しかし、もう寝ないと翌日が大変である。それを告げると不満げな顔をしたが、とりあえず寝させてもらえることになった。
「その部屋で寝てください。用意はできてますから」
ヒサシは奥の部屋を指差すと、寝室に入り、さっさとベッドに潜り込んだ。
指示された部屋に行ってみると、座布団が二枚、投げ出されているだけだった。
しかし、まだ冬ではない。寒くはないので何とかなるだろう。横になれる場所があるだけでもヒサシに感謝せねばならない。
座布団の一枚を二つ折りにして枕にし、夢の中へ。
ギシ…ギシギシ…
怪しい足音に目が覚めた。タバコの煙がどこからともなく漂ってきて、喉が痛くなる。しばらくすると、ジャーッと水が流れる音がする。
ヒサシが動き出しているようだ。もう朝か? でも眠い。非常に眠い。他人の家に泊まったから眠りが浅くて疲れが取れなかったのか。
起き上がることができず、そのままウトウトと横になっていると、やがてバタンと音がして、後は死の世界の静寂である。それでは朝はまだだったか…?
それからは、眠りが深くなろうとするたびに怪しい物音がし、そのたびに目が覚めてしまう。
何だろう?
深夜に徘徊する足音。タバコの匂い。水の流れる音。
心霊現象か? 腹黒い男の部屋だから、何か呪いでもかかっているのか?
結局、ロクに眠れないまま、朝を迎えた。
タイマー設定をしていたテレビがつき、皆藤愛子が天気を伝え始めた。窓から朝の光が流れてくる。
隣りの部屋の電気が点き、やがて黒い影が戸を開けた。ブスッとした顔で、ヒサシがこちらを睨んでいる。
「俺、今日休みますから。風邪引いたみたいで、関節が痛いし、下痢もしてます」
何のことはない。心霊現象かと思われた怪しい物音は、夜中にヒサシがトイレに行く音だった。そして、トイレに起きるたびにタバコを一服していたのだという。
チッ、何て野郎だ。おかげで全然眠れなかったじゃねぇか!
そうヒサシに文句を言うと、腹黒い男は歪に唇を曲げて言い放った。
「風邪なんですよ。薬を飲んで寝るんですから、早く出てってくださいよ!」
ゆで鮹のように真っ赤な顔になり、テンションが上がりまくりの仁。会は盛り上がり、気が付くと、茨城へ帰るのが厳しい時間になっていた。
「ウチに泊まればいいじゃないですか」
ヒサシが言う。なるほど、先日引越しが済んだばかりだから部屋は綺麗だろう。言葉に甘えるとするか。
新宿から大江戸線で練馬に出て、西武池袋線に乗り換える。結構遠いな。やがて大泉学園を過ぎ、やっとヒサシの部屋に着いた。
部屋は片付いていた。というよりも、あまり荷物が無かった。
ヒサシはおもむろにパソコンのスイッチを入れ、こちらを振り返った。そしてタバコを吹かす。
それが写真の姿だ。
他人を見下したような目で、「デスクの下にパソコンの本体がない」とか「このメモリを横にスカッと挿して、ブログを更新してる」とか、得意げに語り始めた。使っているパソコンがバイオなのを自慢したいようだ。
さらに寝室から逆説の日本史のハードカバー本を持って来て、しきりに読めと勧めてくる。しかし、もう寝ないと翌日が大変である。それを告げると不満げな顔をしたが、とりあえず寝させてもらえることになった。
「その部屋で寝てください。用意はできてますから」
ヒサシは奥の部屋を指差すと、寝室に入り、さっさとベッドに潜り込んだ。
指示された部屋に行ってみると、座布団が二枚、投げ出されているだけだった。
しかし、まだ冬ではない。寒くはないので何とかなるだろう。横になれる場所があるだけでもヒサシに感謝せねばならない。
座布団の一枚を二つ折りにして枕にし、夢の中へ。
ギシ…ギシギシ…
怪しい足音に目が覚めた。タバコの煙がどこからともなく漂ってきて、喉が痛くなる。しばらくすると、ジャーッと水が流れる音がする。
ヒサシが動き出しているようだ。もう朝か? でも眠い。非常に眠い。他人の家に泊まったから眠りが浅くて疲れが取れなかったのか。
起き上がることができず、そのままウトウトと横になっていると、やがてバタンと音がして、後は死の世界の静寂である。それでは朝はまだだったか…?
それからは、眠りが深くなろうとするたびに怪しい物音がし、そのたびに目が覚めてしまう。
何だろう?
深夜に徘徊する足音。タバコの匂い。水の流れる音。
心霊現象か? 腹黒い男の部屋だから、何か呪いでもかかっているのか?
結局、ロクに眠れないまま、朝を迎えた。
タイマー設定をしていたテレビがつき、皆藤愛子が天気を伝え始めた。窓から朝の光が流れてくる。
隣りの部屋の電気が点き、やがて黒い影が戸を開けた。ブスッとした顔で、ヒサシがこちらを睨んでいる。
「俺、今日休みますから。風邪引いたみたいで、関節が痛いし、下痢もしてます」
何のことはない。心霊現象かと思われた怪しい物音は、夜中にヒサシがトイレに行く音だった。そして、トイレに起きるたびにタバコを一服していたのだという。
チッ、何て野郎だ。おかげで全然眠れなかったじゃねぇか!
そうヒサシに文句を言うと、腹黒い男は歪に唇を曲げて言い放った。
「風邪なんですよ。薬を飲んで寝るんですから、早く出てってくださいよ!」