乙女高原ファンクラブ活動ブログ

「乙女高原の自然を次の世代に!」を合言葉に2001年から活動を始めた乙女高原ファンクラブの,2011年秋からの活動記録。

第18回乙女高原フォーラム「コケの世界にようこそ」

2019年02月17日 | 乙女高原フォーラム

124名と、少なくともこの12年のフォーラムで参加者数が断然多かった今回のフォーラムの報告です。

  ここ何年かでフォーラムも「定型」が固まってきた気がします。もちろん、様々なバリエーションがあっていいし、その方が多様性があっていいと思うのですが、前年度を踏襲してぬかりなく準備できるし、なにより安定感があっていいです。

 11時半に市・県・ファンクラブのスタッフが集合し、準備を始めました。遠くからは小田原から。スライドプロジェクターの準備、山本さんが採取してきたコケの展示、資料閲覧コーナーの設置、受付事務の準備、湯茶の準備、講師の迎えなどなど。途中、注文していた弁当が届いたので、手の空いたスタッフから食べました。

 

 

  1時からフォーラムがスタートしました。司会は市の古屋課長。高木市長は所用のため開会には間にあいませんでしたが、途中でごあいさつをいただきました。高木市長は「自分も乙女高原を守る仲間の一人」という意識を持っていらっしゃいます。ありがたいことだと思いました。

 

  続いて、ウエハラに司会がバトンタッチされました。乙女高原ファンクラブの2018年度の活動を三枝さんがスライドを上映しながら説明。植原が補足でカヤネズミの存在を確かめるためのペットボトル・トラップ設置調査の結果を報告しました。山本さんからは乙女高原自然観察交流会の報告を、やはりスライドを写しながら。「乙女高原フェロー」の説明を山本さんにしていただいたあと(要するに、10個スタンプが集まると記念品がもらえるというカードです)、今回の乙女高原フェロー認定者に認定書と記念品のマグボトルをお渡ししました。今回フェローに認定されたのは、古屋保さん、雨宮浦さん、井上さん、大江さん、北谷さん、山井さんご夫妻、渡辺さん、いぶきちゃん、さきちゃんの10人でした。

 

 

  井上さんによるゲスト紹介の後、いよいよ藤井さんのお話が始まりました。

 

 

  【コケの世界へようこそ】

 

お話→藤井久子さん      文章まとめ→植原(よって文責は植原にあり)

 

 

 植原さんからこのお話があったのが10月で、その月は子どもが産まれる月でした。無事出産することができたので今日のこの日を迎えることができました。今日はコケとはどんなものかといった話をしたり、実際にコケをお持ちしましたので、それを皆さんといっしょに見たりしたいと思います。山梨市駅前に「道草」さんという屋号で、コケのテラリウムをなさっている石河(いしこ)さんという方がいらっしゃいます。石河さんのご協力でコケを用意させていただきました。最後に、コケを観察している人たちがどんなことを観察しているのか、また、最近のコケの動向についてお話をさせていただきます。

 私は兵庫県神戸市出身です。今日も神戸から来ました。大学を出た後、東京で本を作るプロダクションに9年半ほどいました。今は退職して、フリーランスで編集やライターの仕事をしています。就職していた編集プロダクションは食べ物、特にチーズやパンに特化したプロダクションで、今日のような機会にはコケのお話をしていますが、今も普段来る仕事はチーズとかが多いです。

 コケはまったくの趣味だったんですが、私が誰かにコケの話をすると、ほとんどの人から共感を得られない、話題がまったく膨らまないという現状に愕然としまして、「コケってこんなに魅力的な生きものなのに、知らない人がこんなにいるんだ」と思い、コケの魅力を多くの人に知ってもらいたい、知らない人は人生を損してるぞくらい、おせっかいな気分が高まりまして、仕事柄、本を作ってコケの魅力を伝えようと、2011年に『コケはともだち』という本を作りました。コケの本の企画を出版社に自分で持ち込んだのですが、ダメモトと思っていましたが、企画が通り、かわいい本となりました。入門書です。編集者の人もこの本がコケのように地味に細々と売れればいいと思っていたらしいですが、意外にも「私もコケに興味があって」という方がたくさんいらっしゃって、わりと反響がありまして、コケの話をしてくださいとか観察会をしてくださいという話をいただくようになりました。私は研究者ではないので、専門的な話はできませんが、コケに興味のある初心者に一番近い存在ということで、話しやすいと思うんです。それで、こういう場で話す機会をいただくようになりました。

 さらに、一昨年の春、『特徴がよくわかるコケ図鑑』という本を出しまして、以前はコケのことを話しても伝わらない膨らまない苦い思いをしていましたが、ここ5年間くらいなぜかコケが認知されてきていて、「コケが好き」とか「コケの観察会に行くんだ」というと、「ああ、コケねえ」「今ブームよねえ」「テレビで見たわ」という答えが返ってくるようになりました。実際に野外でコケを観察したい人が増えているなあと感じたので、そのニーズに沿ってこの本を作りました。また、私が持ち歩きたいと思える図鑑を作りたいと思ったので、初心者から中級者に向けて作りました。182種のコケを紹介しています。この本、今までに7刷りまでいってます。コケに興味のある人が増えたなあと実感しています。

 人に背中とお尻を向けて、うつむいてルーペでコケを観察しているというのが普段の私の姿です。近所でコケを観察していますが、時々、旅に出てコケを観察したいので、そのために普段一生懸命働いています。

 

 

■あなたのコケの原風景は?

 コケと聞いて、どんな風景を思い浮かべますか? 街の片隅でちょっとだけモコモコッとなっているとか、ブロック塀の壁面を覆っているとか、石畳の隙間に雨上がりは緑で目立つけど、普段はきたならしいなあ、みじめったらしいなあとか、植木鉢の中に知らず知らずのうちに生えてきていたりとか。チューリップやスミレだったら、散歩中の犬が踏んだら「ダメよ」と言うのに、コケだったら言わないとか。

 一方で、園芸が好きな方は、コケの盆栽だとかコケ玉だとか、最近人気の上がっているコケ・テラリウムだとかをイメージされるかもしれません。

 はたまた、神社仏閣を巡るのが好きな方、庭園が好きな方はお寺などのコケ庭をイメージされるかもしれません。山登りやアウトドアが好きな方は山登りの途中、森の中がコケのじゅうたんになっているのを思い浮かべるかもしれません。屋久島はコケの森にとして全国的に知られているところです。コケのふわふわのマットの上にたねが落ちて、木々の芽が育っていることもあります。

 

■コケは美しい?

 私がコケに目覚めたのは15年ほど前です。母といっしょに屋久島を旅行したとき、エコツアーガイドを頼んで森歩きをしたんですが、そのときにガイドをお願いしたのが屋久島野外活動総合センターの小原さんでした。この方がコケに詳しい方だったんです。屋久島といえば屋久杉というイメージが強いと思いますが、小原さんに「屋久島を知りたかったら、コケを見て」と言われたんですね。そして、足元のミズゴケを引き抜いて、手でミズゴケを握りつぶして、水が滴り落ちるのを見せてくれました。普通の植物なら引き抜いて、握りつぶしてしまえば元には戻りませんが、「このコケは大丈夫。スポンジみたいに水を吸い込んでいるんです。にぎるのをやめればコケのスポンジは元に戻るし、地面に戻せば、また生えます」と説明されました。それを聞いてヘーと衝撃を受けました。小原さんはさらに、「コケはサイズが小さいので気づかないけれど、コケにはいろいろな種類があって、ルーペで見ると美しい生きものなんですよ」と言われて、ルーペを持って、屋久島の森を歩きました。ヒノキゴケやヤクシマホウオウゴケ、コマチゴケ、ウツクシハネゴケ、白っぽいオオシラガゴケ、フォーリーテギバゴケ、赤いヤクシマゴケなどを観察しました。うずくまってルーペを使うと、今まで見たことのないようなミクロの世界に入り込むことができました。

 

■身近なコケはどうなの?

 屋久島から帰ってきて、ルーペと図鑑を買って、身近なコケを観てまわるようになりました。たとえばギンゴケ。このコケは都会のアスファルトが主なすみかです。都会のアスファルトというと、冬は乾燥が著しいし、夏は灼熱地獄だし、すごく過酷な環境の中で生きているコケです。コケを見ていると、だんだんコケに入り込みすぎて、コケが人のように見えてきます。ギンゴケは私にとっては、過酷な環境の中でしぶとく生きているコケなので、仙人風のキャラクターに見えてきます。半分は私の妄想なんですけど、都会のサラリーマンに「きょうもしっかりやりなよ」と話しかけているんじゃないかと思えてきます。

 ハマキゴケも乾燥に強いコケです。繁殖力も強いので、ギンゴケがきゅっとまとまって生えているのに対して、ハマキゴケはベターと平たく生えています。乾燥に耐えるためにクルッと葉を内側に巻いて耐え忍ぶんです。このとき、コケ全体が茶色く見えます。雨が降ると葉が開いて、きれいな緑色になります。霧吹きでシュッシュッと水をかけると、あっと言う間にそこだけ緑色になります。ハマキゴケは壁面に生えることもあるので、応用すると、霧吹きで文字を書いたり、絵を書いたりして楽しむことができます。

このコケは、私の中では「都会の緑化隊長」なんです。都会に緑を多くするからですが、ただ、乾燥すると勝手に茶色く汚くなってしまうので、そのキャラクターは歯がゆい表情をしています。

 ゼニゴケは乾燥に弱いです。ですから、エアコンの室外機の下や、一日中直射日光が当たらず、ジメジメしているようなところによく生えています。このコケは園芸をやっている方に嫌われています。どうにかして撲滅させたいという声をよく聞きます。でも、アップで見ると、ヤシノキみたいな形をしていて、コケなのに葉の下に黄色い塊が付いています。これは胞子のかたまりで、ここから胞子がフワフワッと飛んでいくんです。私の妄想ではこのコケは「都会の中で少子化反対を強く訴える夫婦(めおと)ゴケ」です。

 

 都会のど真ん中でもコケはたくさん生息しています。調べてみると、私の見てきたコケは都会派のコケ「アーバン・モス」でした。アーバン・モスとひとくくりにはしますが、好みの環境がそれぞれ違っていて、棲み分けていることがわかりました。見た目だけでなく、それぞれの環境でうまくやっていく処世術を身につけていて、それまで知ると、キャラクターに見えてきちゃうくらい、人の想像力を刺激する生きものなんだなと思いました。

 

 コケの魅力を小まとめします。

・コケは近づきさえすれば、そっとその美しさを披露してくれる。

・図鑑などを使ってコケの性格を知ると、コケが100倍おもしろくなる。

・ルーペと図鑑はコケの森にトリップするために欠かせない魔法の道具

 

 

■コケってどんな生きもの?

 コケは専門用語で蘚苔類(せんたいるい)といいます。蘚も苔もコケという意味ですが、普段、私たちが使うコケの漢字は「苔」ですよね。

 コケには蘚類・苔類・ツノゴケ類という3つのグループがあります。蘚類が一番大きなグループで、日本にはだいたい1000種類あります。苔類は600種類、ツノゴケ類は桁違いに数が少なくて17種類です。ツノゴケはレア・ゴケです。合計すると、日本全体で1700~1800種類です。世界では18000種類です。日本の面積は小さいのに、世界のコケの1/10は日本で見られます。日本はコケの豊富な国なのです。山があって川があって、まわりに海があってそれなりの湿度が保たれていて、さらに四季もあるので、コケにとってはたいへん住みやすい環境なんだと思います。

 コケと間違えやすい生きものがあります。シダ類や地衣類、菌類(きのこ)など。中には種子植物なのに間違えそうになるものもあります。特にシダ類のクラマゴケや地衣類のアカミゴケなどは、コケじゃないのに名前にコケと付いていて、ややこしいです。

 

 コケと他の植物などとの違いはなんなのでしょうか。それには4億5千万年前の世界を想像する必要があります。コケをカビや菌類と間違える人がいますが、コケは光合成をして生きています。つまり、植物なんです。カビなどの菌類は光合成をしませんから植物ではありません。コケは地球史上最初の陸上植物と言われることもありますが、正しくはそうではありません。水中の藻類から進化して、最初に陸上に上ったある植物がありました。そこから分化して、あるものはコケ植物に、あるものはシダ植物に、あるものは種子植物になりました。コケは陸上初の植物から早い段階で分化してコケになったので、シダ植物や種子植物に比べ、圧倒的にサイズが小さく、体の作りが簡素というのが特徴です。

 

 コケの体を見ていきましょう。

 コケは光合成をしているので、色は黄緑色から緑色です。これが必須条件です。シダや種子植物と違ってハイスペックではありません。茎はあっても、維管束はありません。根はありません。仮根がありますが、これは土から水分や養分を吸い上げることはなく、土や岩につかまっておくためだけのネットみたいなものです。じゃあ、コケはどこから栄養を吸収しているかというと、茎や葉など体全体からです。もともと、それほど栄養がなくても大丈夫です。雨水に溶けている栄養があればいいくらいです。つまり、コケは水と光があれば大丈夫、土がなくても生きようと思えば生きていける植物です。だから、アスファルトや壁面でも大丈夫です。

 

 コケの普段の姿は「配偶体」と呼ばれます。繁殖するために、時期になると配偶体の上に「胞子体」を作ります。コケは花を咲かせませんし、種子も付けません。代わりに胞子で増えます。胞子体には壺のような部分があって、時期が来ると、その蓋が外れて、中から胞子がばらまかれます。

 胞子はとてもちいさくて、ミリ以下です。たぶん、この会場にも胞子が漂っています。皆さんが食べているかもしれません。見えないので、気づきません。それが地上に舞い降りて、その環境が気に入ると、芽が出て、網目状に広がっていきます。原糸体(コケの赤ちゃん)です。原糸体が生長して、幼植物(子どものコケ)になり、さらに生長すると配偶体(大人のコケ)になります。コケの配偶体には雄株と雌株がありまして、雄株からは精子が出て、雌株には卵があって、受精をして、雌株から胞子体がニョキニョキと伸びて、胞子が壺状の蒴(さく)の中で成熟したら、また胞子が撒かれるという暮らしをしています。

 コケの受精には必ず水が必要です。種子植物だったら、虫が花粉を運んでくれるとか風で運ばれるとかしますが、コケは陸上最初の植物から早くに分化して、わりと原始的な性質が残っているので、水中に住んでいたときの名残がまだあって、水がないと受精できないのです。陸上に上がって、水が豊富な時はいつかというと、梅雨ですよね。梅雨になって雨が降ると、雄株の上に雨粒が落ちたときに、雨粒に精子が入り、その雨水が雌株にたどりつけたら受精できるのです。運次第の繁殖です。

 受精するとすぐに胞子体が出るというわけでもなく、コケにもよりますが、多くのコケは梅雨時に受精し、次の年の春に胞子体を出します。人間の赤ちゃんの十月十日と似ていますね。

 このように有性生殖が運頼みなので、無性生殖という繁殖手段を多くのコケが持っています。要は自分のコピーを、たねのようなものを飛ばしたり、体の一部をちぎって群落を増やしていきます。コケってモコモコしていますよね? コケが一本で生えていることはなく、必ず群落(モコモコ)になっています。コケはとてもサイズが小さいので、一本だけで雨粒を受け止めることはできません。だから、早く群落を作って、集団で雨粒を受け止めたいのです。集団で受け止め、それを繁殖のために保持していたいのです。それで、無性生殖で群落を早く作ろうとしているわけです。

 

 コケは雨が降らず、からからになったらそれで終わりというわけではありません。休眠してやり過ごします。種子植物は維管束があって、根から水分や養分を運んでいるので水が多少なくても生きていけるし、葉がそもそも固いので、葉から水分が逃げてしまうことも少ないです。一方、コケには根はないので、土から養分を吸収できないし、細胞がとても薄くて、葉が透き通るくらい薄いので、水分も簡単に蒸発してしまいます。なので、すぐにカラカラになっちゃうんです。でも、これでこのまま終わりではなく、そうしたときに光合成もやめて、寝てすごす術を持っています。

 雨が降ったら、すぐに元通りになり、雨上がりには光合成をします。天気にまかせて、成り行きにまかせて生きているのが、コケの大きな特徴です。他の植物はスペックが高いので、天気に抗い、無理して踏ん張って生きていますが、コケはもともと原始的な構造しか持っていないので、踏ん張りたくても踏ん張れない状態です。それで成り行きに任せて生きています。周囲の環境の水分によって、細胞中の水分の含有量が変わることを変水性といいます。コケの大きな特徴です。根がないことで土のない場所にも生えられる機能に加えて、この変水性のおかげで、コケ植物はほかの植物よりも地味で簡素で原始的で・・・とマイナス・イメージがいっぱいありながら、地球のあらゆるところ、どんな隙間にも生えることができるのです。何もないのに成功した植物と言っていいでしょう。

 

■あなたもコケを見てみよう

 

※ここで、石河さんに用意していただいたスナゴケ、石河さん・藤井さん・乙女高原ファンクラブで用意したルーペを配り、実際にコケ観察をしてもらいました。ルーペの使い方について藤井さんからレクチャーがありました。まずは乾燥状態のコケをじっくり観察してもらいました。乾燥ひじきみたいです。休眠状態のスナゴケです。さらに、霧吹きで水をかけてもらい、休眠から覚める様子も観察してもらいました。二人一組で、一人がルーペでコケを観察しているときに、もう一人が霧吹きすると、瞬間芸のように葉が開きました。

 

コケの魅力

 ・コケは日本に1700種、世界に18000種、どこに行っても出会える楽しみがある。

 ・植物の中では作りは原始的。だからこそ、ここまで生きぬいた、植物界の隙間産業。

 ・無理はせず、なりゆきまかせの平和主義者。つつましく、しぶとく。それがコケの人生哲学!

 

■コケ観察のいいところ

 コケ観察のいいところは3つの「ない」です。まず、「体力に自信がない」でもOK! コケはいたるところに生えていますので、山に登らなくても近所でも観察は楽しめます。2つめは「コミニュケーション能力に長けていない」でもOK! コケ観察をしていると無駄にコミュニケーョンとる必要がありません。それぞれみんなコケ観察に集中していますので、おしゃべりはかえって不要だったりします。3つめは、「楽しめる世代がボーダーレス」。異世代間交流で人生に刺激を! コケが好きな人は幅が広いです。私が顔を思い浮かべられるのも小学校中学年くらいから90代の方まで様々です。男女比でいうと、男性が若干多いです。コケガールというのはメディアが流しているイメージだと思います。コミュニケーション能力がなくても、コケの情報を交流したいので、世代に関係なく自然と会話が進みます。コケ好きな人には優しくて親切な人が多いので、わからないことがあると60代70代の人でも、20代30代の人に「判らないんだけど」と聞いちゃっています。コケのことを身近な人と話すことはありまないので、聞かれたほうも「それだったら」と親切に答えてあげます。コケの会なんかでは和気あいあいとやっています。知らない間に異世代間交流ができています。

 

 コケの情報をいち早く知りたいと思ったら「岡山コケの会」と「日本蘚苔類学会」という会がありますので、お勧めします。岡山・・は愛好会で、初心者でも入れます。「・・・学会」は基本的に研究者が集まって学会を開いたり論文を出したりという活動をしています。まじめに好きな人だったら、研究者の会ですが受け入れてくれます。私も入っています。毎年違う県で学会を開いています。そのうち山梨県にも来るかもしれません。

 

 岡山コケの会では、毎年11月、京都の府立植物園で「苔・こけ・コケ展」という企画展を開催しています。3日間の会期でのべ4000人もの方が来場してくださいます。写真やテラリウムを展示しています。コケのアートもあります。

 また、先々週には神戸で「KOBEきのこコケ展」が開催されました。テラリウムを展示しています。コケとキノコのコラボのテラリウムもありました。ワークショップでテラリウム教室もやっていますが、キャンセル待ちが出るほどの人気です。

 

 日本蘚苔類学会では「日本の貴重なコケの森」を認定しています。20箇所以上が認定されています。中には入山に許可がいるところもあります。皆さんにお勧めなのは青森県の奥入瀬渓流と長野県の北八ヶ岳、鹿児島県の屋久島の3箇所です。ここにはコケに詳しいガイドさんもいます。この3箇所が手を携えて、昨年、コケ・サミットを開催したそうです。それでちらしを作ったそうです。

 北八ヶ岳は標高でいっても乙女高原と同じようなコケが生えているんではないかと思います。ここでは春から秋にかけて毎月1回はコケの観察会をしています。山小屋で一泊しますから、コケ合宿の様相です。山小屋のご主人などが案内してくれます。昼着いて、午後、コケ観察会をします。夜はコケ茶会をします。山小屋でコケが刻印されたクッキーを作ってくださいました。次の日、朝から昼の帰りの時刻までコケ観察をします。ナンジャモンジャゴケという珍しいコケを観察しました。

 奥入瀬のいいところはアップダウンが少ないことと、車道の横に遊歩道と渓流があるので、車で途中まで行って見て、また車に乗って、見てと、足が悪い方でも安心して観察できるところです。ですが、もちろん、本格的なコケ観察ができます。おみやげ品としてコケのお菓子がありました。

 屋久島は私のルーツです。ガイドの方と深く仲良くなると、ちょっとルートから外れて、本格的なコケ観察をさせてもらえます。

 この3箇所には、それぞれ、ご当地コケ図鑑があります。基本的にご当地に行かないと手に入りません。

 

 日本の新たなコケ分化に海外の人も注目してくれています。取材されました。

 海外にもコケ文化がないか気になっています。スウェーデンにスギゴケ系のリースがあり、友達が買ってきてくれました。スギゴケで作ったほうきで暖炉の煤払いをすることもあったそうです。現在では使われていないのかなあと思いましたら、地方では作っている方もいるようです。ホームページを見つけました。

 

 壁面アートの記事が新聞に載っていました。コケが一面に生えている道路脇の広い壁面で、コケをうまく削って、ジブリのキャラクターであるとか、キノコとかの絵を作っているのです。サイトを調べてみると「何もないところから、なにかを生み出す」とあるのですが、私に言わせれば「そこにはコケがあるんですよ」というか「コケを削ってるんでしょ」と言いたくなります。「コケの汚れを利用してアートにしてしまう環境の優しさも相まって、良い」ともありました。

 福井県のコケ庭で有名な平泉寺のコケがむしり取られていたというニュースもありました。これは非難されていますが、コケアートだって、コケからしてみれば、むしり取られちゃうことにかわりはありません。何が正しいかは、人間社会での有益・無益、損得で決められてしまいますが、コケからしたら同じ。何が正しいんだろうなあと思いました。

 

 コケの人気が高まるとともに、コケを盗掘する人や心ないことをする人もいます。無許可で山からごっそり取って商売している人もいます。売られている商品の背景まで考えている人っていないと思うんです。だけど、そのコケがどこから来たのか、考える時期にきているだろうなと思います。

 コケを採るときは、まず目的。研究者は研究のために採ります。一般の人は調べたいからとか、趣味で採るということだと思いますが、それだったら、採取してもいい場所なのかを確かめる、根こそぎ採ると、せっかくその場所が気に入って生えているのに、生えることができませんので、少しだけ持ち帰って、大部分は残しておくようにしてください。コケが自力で修復できる程度の量にしてください。これらが岡山コケの会や蘚苔類学会でコケ採取のルールとして提唱していることです。

 個人の園芸を楽しむレベルではなくて、百貨店等でディスプレイとしてコケが使われる場合があります。大きい植物の引き立て役として地面にコケが使われているんです。コケ仲間と見たところ、いろいろな種類の植物がコケに付いていて、おそらくこれは栽培されたものではなく、山からごそっと採ってきたものだろうと思いました。ディスプレイが終わったら、どうなるのでしょう。廃棄されてしまいます。そういう背景を考える時期にきているなあと思います。

 コケを畑で栽培している農家の方がいます。良心的なテラリウム作家の方は、そういったところからコケを買っていたり、テラリウムで残った仮根や茎を利用して、そこから栽培したりしています。山でコケを採るだけ採ってしまうと、コケがなくなり、種子がコケに落ちて、そこを苗床として大きくなることもできなくなります。人間が自分の欲のために行動すると、山がダメになってしまうかもしれません。自然にできるだけ負荷をかけないコケとの付き合い方、自然との付き合い方ができればいいなあと思います。

 

 コケ図鑑の奥付に井沢正名さんの言葉が載っています。植原さんも「図鑑を読んで、奥付のところが心に響いた」といってくれて、すごくうれしかったです。

「研究や趣味などで、コケを単に知的好奇心を満足させるだけだったり、慰みものにしたりして、終わりにしてほしくありません。生態系の中の重要な要素として捉えてもらいたいと考えています」

 

  ※      ※       ※

 このあと、QandAの時間を取り、閉会行事の中で乙女高原ファンクラブ代表世話人 古屋さんからお礼のあいさつがあり、世話人 芳賀さんから諸連絡があり、フォーラムを無事終了しました。

 

 

 片づけ後、スタッフや希望者と茶話会をしました。25人もの方が残ってくださり、交流しました。

 また、この日は夕方から駅前の居酒屋さんで懇親会も行い、6人で楽しく飲みながらお話しました。

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