けふはここまでの草鞋(わらじ)を脱ぐ 種田山頭火
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よく歩いた。長い道程だった。途中の醤油屋の垣根には鬼百合が咲いていた。それも見た。牛が水浴びをしていた。農夫と一緒に川へ入って。牛が嬉しがって鳴いた。それも聞いた。脹ら脛が凝っている。くたくただ。今日はここまででいい。ここまでにする。草鞋の紐を解いて脱いでどっかり座り込む。ゆっくりする。道はどこまでも続いている。慌てることはない。急いでいかねばならないということもない。永遠へと続くのだ、この道は。いのちの道は。意識するとしないと関わりなく、目標を人は持って歩いている。そこへ到達すれば人は完成して仏陀と成ることが約束されている。でも今日はもう日暮れた。夏蝉の声がまだ聞こえている。まずは汗を拭こう。草鞋を脱ぐと今日が終わる。肉体を脱ぐと今生が終わる。ここまででいい。ここまでにする。進んで行く道が消えるということはない。ブッダまでの大きな堂々とした一本の道である。
明日はそれからの草鞋をつける
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