わたしに、息をしていいよ、と言うから、わたしは息をしている、というわけでもなくて、息をして、息をおいしいと思って、嬉しがっている。
そう、その通り。息をしていい条件が完全完璧に満たされているから、わたしが息をしていることができるんだけど、そんな背景なんか気にもとめずにいる。
すうすうはあはあ,息をする。わたしがそうできる分、わたしはしっかり愛されている。
夕風の中の呼吸が涼しい。
わたしに、息をしていいよ、と言うから、わたしは息をしている、というわけでもなくて、息をして、息をおいしいと思って、嬉しがっている。
そう、その通り。息をしていい条件が完全完璧に満たされているから、わたしが息をしていることができるんだけど、そんな背景なんか気にもとめずにいる。
すうすうはあはあ,息をする。わたしがそうできる分、わたしはしっかり愛されている。
夕風の中の呼吸が涼しい。
夕方が来ている。もうすぐ5時。9月が来て、日が短くなっている。7時には暗くなってしまう。
では、外に出よう。作業着に着替えて,外に出よう。庭も畑も夏草が藪を作っている。
気温は、しかし、それでも、まだ33℃もある。汗を掻きそうだ。水分補強をしておこう。
You're safe.You're loved. You're guided.
守られて,愛されて、導かれているわたしがいる。
ああ、嬉しい。
*
わたしがここにいるだけでいい。
わたしがここにいるだけで、わたしは守られて愛されて導かれている。
みんな受動態でいていい。そうされるままになっていていい。
*
わたしを守る主語は隠されている。わたしを愛する主語は隠されている。わたしを導く主語の主体者は隠されている。
あなたを守って愛して導いているのはわたしだよ、なんて言わないでいる。
*
でもって、わたしも服従している顔をしないで、自由気ままにふるまっている。
わたしは詩を書いてあなたのところへ行き着こうとしているのだけど、わたしの詩はひとりよがりだから、もしかしたらあなたを遠く隔たっているだけなのかもしれない。
わたしをどう設定してもいい。で、わたしは、わたしを嬉しいわたしにする。そして,嬉しがる。
生きている間はずっと、こうしていてもいいように思う。
もうすぐに死んでしまうことになるけれど、その短い間くらいなら、嬉しがって嬉しがっていていいように思う。
何でもいいから嬉しがる。わたしを嬉しがらせようとしているものばかりだから、嬉しがる。
わたしを嬉しいわたしにする。そういう設定にする。
*
わたしは、苦しみも悲しみも身に受けて、それを反転し、反転を繰り返しながら、それらをみんな糧にして、結局は上昇を続けていることを、わたしは知っている。
黄色唐辛子がわたしの唇までもヒリヒリさせています。辛い成分が直接的に効きました。
昼は素麺ですませました。出しに黄色唐辛子を下ろしてみました。ヒリヒリするほどに素麺がおいしさを加えました。
わたしはついに泣き出します。涙が大粒で頰を流れて行きます。わたしは浄化されます。
あなたがそこで詩を朗読しているからです。
あたしはついに感極まってしまいます。あなたがわたしのために詩を朗読しています。
あなたの詩を聞く耳を持つわたしがいます。それを知ってあなたがますますいい声をして,詩を朗読します。
あなたは風。秋の野原を吹いて来る風。やさしい風。野分。あなたのやさしさがわたしを涙にします。あなたのやさしい語り掛けが、詩を書いています。
風の書く詩はいつもわたしを嬉しがらせようとします。嬉しがらせようとする意思で満ち溢れています。
わたしは喉に声を持つイキモノ。声が,単独でイキモノをして外へ出たがる。
声のイキモノが、民謡を歌い出す。「佐賀の箪笥長持ち唄」を歌い出す。
♪ 箪笥ナアー、ヨーエ、長持チャーヨエー、ハアー、七棹(ななさお)八棹(やさお)、中のナーヨーエ、お衣装はハアー、綾錦ナアー、ヨーエ ♪
尺八が鳴る。小太鼓が鳴る。イキモノが張りのある高い声を放つ。
囃子詞が加わる。
(ハアー、やろやろエー)(ハアー、しこいしこいしこい)
イキモノが乗りまくる。文金高島田・角隠しの美しいお嫁さんが、草履を履いて、しずしず歩いて来る。
わたしにとって、わたしに対面するものの、すべてが、あなた。二人称になる。
わたしに対面をしようとして、あなたがそこに出現する。わたしはあなたに語り掛ける。親しく語り掛けることになる。
夏の、ハグロトンボもわたしのあなたになる。
そうなると、わたしも、あなたのわたしになる。こころを開く。
ようやく会えたものどうしになる。親しく、久闊を叙すことになる。
日が傾いた。ハグロトンボが近くの露草に来て、羽を休めている。
あなたが、そこでちらちら光るさざ波になると、わたしは俄然として詩を書きたくなる。詩を書けと命じられた気になる。書こうとする。手足が藻掻く。手足が宙を舞う。
とうとう書けないでもどかしがる。
今日も、秋の日のあなたがそこに来て、チラチラ光る細波(さざなみ)になっている。