朝風呂へ降りて行こう。この宿の内湯は熱い。長風呂は出来ない。川沿いの散歩もいいな。泊まり客の三歳になる女の子が何度もチューリップの歌を繰り返している。昨夜食事時に隣の席にいたので、覚えている。地震のあった熊本県益城町から来たらしい。家族四人だ。夜の風呂でお爺さんといっしょした。いろいろ話を聞かしてもらった。辛かったろう辛かったろう。地震後今日が初めての余所行きということだった。
朝になっている。もう大丈夫だ。例の通り寂しがらせようたって、大空のこの明るさ、この眩さではそうはいかないぞ。オレの勝ちだ。辛抱勝ちだ。屋根上の雀の挨拶。階段を降りていく人がいる。港の船のただいまーの響き。新緑の近くの岡からウグイスが鳴いている。下手くそのところも楽しめる。ときおり鷺が素っ頓狂な鳴き声を上げて飛び去って行く。こうやって地上の賑わいを追加する。朝だ朝だ。ともかく夜が明けている。
今日はどうしよう。硫黄泉の臭いがする植木温泉に行こうか。遠いぞ。5時間は見積もっておいた方がいいぞ。海岸線を辿って外回りしながら北上しよう。海岸線は見事だ。息を飲む。岩場に貼り付いたアオサの海の、青い香りも美味しいはず。
いやああ、お天気がいいぞ。暑くなりそうだ。何度か我が家の畑のことが気に掛かる。水撒きをしないと苗物が枯れてしまいそうだ。雨になってくれたらこの先ずっと旅が続けられるのになあ。