わははは。2時間が限度だった。蒸し暑くて下着がびしょびしょになってしまった。日は照っていないが、日射病に罹りそうなくらい体が火照った。何が何でもしなければならないことでもないし、途中で野良作業を切り上げてきた。外に出るとあれこれあれこれ目につくことがある。目につくと通り過ぎるわけに行かなくなる。それでその断片のような作業をする。そういうのが次々に見付かると、はじめしようと考えていたことまで到着しないことになる。その辺の匙加減が難しい。真っ赤に熟したミニトマトを採取して、胸ポケットに入れるだけ容れて、戻って来た。これはお昼ご飯の時にいただこう。腰の左右にぶらさげていた作業用携帯蚊取り線香を除去するのももどかしく、裸になってシャワーを浴びた。シャボンの泡だらけになった。さっぱりした。この高齢になってもまだ、それなりにだが、働けることがあるのだ。これが嬉しい。
雨が降り出す前に、やっておきたいこと。といっても、腰痛持ちだから、作業はのろのろ。だから、やれるのはほんの少ししかだろうが。とにかく外へ出てみよう。もうずいぶん怠けていたから。
1,施肥をする。粉状の油粕を根元周辺に撒いてあげる。まずはじめにトウモロコシから。次にパプリカ、次にピーマン、次に隠元豆と黒枝豆、次に白茄子。
2,繁茂するトマトに支柱を立ててやる。これまでの支柱の高さを茎の中心軸が超えてしまったので、さらに高い支柱を立てて、これを紐で結び付け、風が吹いて来ても倒れないようにする。
3,摘んでおいたトマトの脇芽を丸鉢プランターに仮植えする。これは捨てるのが忍びないから。
4,胡瓜棚のあいまあいまに蔓有り隠元豆の種蒔きをする。
5,ジャガ芋を掘り上げた深鉢プランターに有機石灰、肥料を加えて土作りしたあと、チンゲンサイ、不断草、小松菜の種蒔きをする。夏の終わりには食べられそう。春先に蒔いておいたのはいまが収獲期を迎えている。
6,白茄子のまわりの雑草を抜く。わんさかわんさか夏草が茂っている。
7,これだけすればぐったりしているだろう。3時のおやつの後、しばらく昼寝をする。
体調が戻ってきたようだ。腰痛は相変わらずのようだが。肺に吸いこむ空気がおいしく感じられる。コップに盛り上がる水の表面張力のように、今朝は全身の力が、崩れずにぴんと張っているのが感じられる。わたしは元気だ。気力にあふれている。
きっと誰かがそうしてくれたんだ。わたしにはそれと分からなかったが、見えないみんながみんなしてその努力をしてくれたんだ。そうすればわたしが嬉しがるので、嬉しくさせよう嬉しくさせようと努力をしてくれたんだ、きっと。
食べた真っ赤なトマトがそうしてくれたのかもしれない。夏野菜の油炒めチンゲンサイがそうしてくれたのかも知れない。庭に咲いた白い桔梗の秘密の力かもしれない。色とりどりのユリの花々たちの総力かもしれない。渾身の努力を傾けたのは、案外、夏ツバメかもしれない。ふんわり湧いていた雲かもしれない。
楽しかった。ありがとう。楽しさにも濃さ薄さがあるかもしれない。もしかしたら、それは水のような空のような薄さだったかもしれないが、でも頂いた楽しさで十分だった。ありがとう。朝になって、昨日の一日が思い出されてくる。朝が来て昼が来て夕方が来て夜が来て、何処に居ても何をしていても、なんにもしていなくても、時が流れていく間中ずっと楽しんでいられたように思う。楽しめばみんな惜しみなくありったけを提供してくれたように思う。ズッキーニが、株ごとに新しい大きな黄色い花を着けて、朝を迎えている。今日はどんな楽しさをわが花籠に盛るのだろう。ゆるやかだが、わくわくのうねりが、こころの海を静かにおごそかに伝って来る。