ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

楽あれば苦あり、リターンズ。

2006-08-16 01:44:51 | 能楽

で、再び昨日は師家のお装束の虫干しのお手伝いに行って参りました。

画像をご覧になって分かるように、今回の ぬえは唐織とか紅入縫箔とか、ハデなお装束を干すところには残念ながら居合わせませんでした。。今日 ぬえが手伝ったのは狩衣、色大口、半切、無紅縫箔、角帽子、唐帽子、袈裟頭巾、緞子腰帯、舞衣、半着付。。と比較的渋いお装束ばかりでした。でも今の ぬえは無紅縫箔にとても関心を寄せているところなので、それはそれで嬉しい日でありました。



また師家の古い狩衣を干そうとしたところ、裏地にほつれと切れを発見しまして、繕いのお手伝いに何人かのお弟子さんも参加しておられましたので、そちらにお任せしてもよかったのですが、何となく ぬえが修繕を始めました。何というか、この狩衣に愛着もあったからかなあ。そしたらまあ、見つけた解れだけではなくてあちこちに傷みがある事に気づいて、大がかりな補修となりました。まあ、糸針を扱うことは普段から慣れているので、そこかしこを補強して。。そしてそれが出来上がったときの達成感と言ったら! ぬえがこの狩衣を蘇らせた、と思うと満足感でいっぱい。

考えてみれば ぬえ、学生時代に初めて能を見たときには衝撃的だったけれども、その後の観能は、だんだんにお装束を見る楽しみが勝っていたように感じます。今思えば、演者はお装束の文様の取り合わせにいろいろなメッセージを織り込むうえに、色合いのバランスにも気を遣っているから、割と ぬえはイイところを見ていたのかも。いまでも ぬえは自分が舞う曲のお装束にはかなり凝りますし、工夫もしています。

ところが面白いもので、能楽師の中には自分が着るお装束にあまり頓着しない人もありますね。身体的な稽古に重点を置いて曲を構築していって、自分を飾るのは潔しとしない人。そんな人もあります。。まあ、そう人ばかりかと言うと、そうでもなくて、稽古の段階では自分が舞う曲の面装束にまでは関心が及ばない、という人もいるのも事実ですけれども。。

ぬえは能を舞うときには、肉体的な稽古と割と平行して装束の取り合わせを、稽古の初期段階から考える方です。どの面を使うか、ではなく、どの装束を使うか、と考える事はどうなのかなあ、と自分でも思いますけれども、ある年 故・観世銕之丞師がどこかでかの発言でやはり「自分は装束の取り合わせから能を作っている」と仰っているのを聞いて、ぬえが間違っているわけではないんだ、とようやく思うことが出来た、という思い出があります。

ともあれ今年の師家のお装束の虫干しは終わりました。やはり3日間ではとてもすべてのお装束を干すには足りませんが、古いお装束にとっては清々しい空気に触れて、ここが骨休めの夏休みだったでしょうね。

虫干しのお手伝いをしてくださった皆様に感謝申し上げます。