去る土曜日、群馬県・伊勢崎市でホール能があり、ぬえも地謡に出演させて頂きました。
これは伊勢崎市ではもう恒例になった催しですが、この日上演された能『海士・懐中之舞』では 豆ぬえが初めての子方を勤めさせて頂きました。豆ぬえ…アイツです。世界征服をたくらむ6歳児。龍女を味方につけてその野望をまた一歩現実に近づけたようです…
初めての子方のお役にしては『海士』はちょっと難しかったかな~、とは思いましたし、そもそも 豆ぬえにはこの1年近く稽古をつけていませんでした。どうも覚えが悪くて。本人もあまり舞台に出るつもりはなかったようです。なんせ チビぬえが厳しく稽古をつけられているところを目の当たりに見ていますからね~ (__;) 自分はあんな目に遭いたくないとも思っていたようです。
がしかし。実際問題として「右に行く」「左へ廻る」ということさえ覚えないのでは稽古のしようもないわけで。そんなワケで怒った ぬえは、お弟子さんの小さな発表会に出す予定だった 豆ぬえの仕舞もすべて取りやめてしまいました。
そうして月日は流れて… 昨年の秋頃に、先輩からこの伊勢崎市での『海士』の子方のお役を 豆ぬえに任せたい、というご相談がありました。 へ?? なんで豆ぬえ?
どうやら、いつの間にか ぬえの師家では子方の人材が不足していたようです。あれあれ、先日まで子方はてんこ盛りにいましたのに! そういえば…思い起こせばずっと以前に子方をしていたK君はいまや書生さんとして修行中。つい先日まで子方を勤めていたS君は受験生ですって! そうして チビぬえもいつの間にか声変わりをしてしまいまして(年齢と比べてちょっと早かったですが…)、これも子方はもう無理になってしまいました。こうして、あれよあれよと言う間に子方を勤められる子どもがいなくなってしまって、そうして 豆ぬえに白羽の矢が立ったのですね… んん~、どうしよう…
なんせ初子方。しかも曲がセリフも型も多い『海士』で、その上今回は「懐中之舞」の小書つき。これによりまた子方の型も増えるのです。ああ~、大失敗が起きる予感… (×_×;) そこで、お役を頂いた先輩には申し訳ないですけれども、このような事情ですので、チビぬえにも同時に子方の稽古をつけておいて、豆ぬえが どうしても、どうしても子方の役が勤まらないような最悪の事態に立ち至った場合、そのスペアとして チビぬえが代役することもご相談申し上げて了承を頂きました。
こうしていよいよ本格的に子方の稽古を始めたのですが、やはり1年間の間に子どもは成長しているのですね。この度の稽古では 豆ぬえは型も謡もよく覚えられるようになって、稽古は成果をあげてゆきました。そうして、これが子方の稽古としては一番肝心なのですけれども、舞台上でアクシデントが起こった場合の対処のしかたについて何通りものシミュレーションをするところまでたどり着いて、なんとか舞台で失敗する恐れは少なくなっていきました。
それでも、まだまだやる事はあるんです~。装束を着けての稽古もしなきゃならないし、『海士』のビデオを見せて実際の舞台のイメージをつかませ、申合ではいかにこれと違うかも説明する必要があります。すでに チビぬえの稽古の際に思ったことですけれども、「わかりきっているところは省略」「面装束は着けているつもりだけ」というスタンスで臨む能の申合は子方にとっては試練ですね。そのうえ囃子方も大鼓は革が痛むため張り扇で演奏するし、そもそも囃子方は申合では床几に腰掛けずに正座して勤める習わしになっているし…さて本番で幕を揚げてみれば、子方にとっては申合と全く違う状況がそこにはあるわけです。これをちゃあんと説明しておかないと、本番で子方は混乱して、何もできなくなってしまう…
こうして、どうにかこうにか大過なく 豆ぬえは初の子方を勤めることができました~。3歳から稽古を初めて4歳になったばかりから子方を勤めている チビぬえから比べればずいぶんと遅いスタートではありましたが、物怖じする性格でもないし、これからは良い舞台を勤めてくれることを期待しています。
さて…『海士』を無事に勤めたごほうびは何がいい? と聞いたところ、豆ぬえから返ってきた返事は「水族館に行きたい」でした。ほおほお、何だかんだ言ってもやっぱりお子さまだね~
…まてよ。。
龍女を味方につけた 豆ぬえは、その眷属を手下にするために水族館に行くのではないのかっ!? 「おい、おまえら…誰がボスなのかわかっているよな…。○月×日に決起する…。おまえはイギリスを包囲しろ…。おまえたちは海からニューヨークを攻撃するんだ…。上海にアタックを掛ける者は料理の材料にされないように注意しろ…。わかったら…散れ!!」そっと水槽につぶやく 豆ぬえ。(O.O;)(o。o;)
ああ、世界征服の脅威はいま目の前に!? (;>_<;)