能楽の心と癒しプロジェクト
第10次被災地支援活動(2012年10月21日~22日)
〔活動報告書〕
【趣旨】
東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒しプロジェクト」の4名(※注1)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに9度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市および大崎市にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田は、去る10月21日と22日の2日間に渡り宮城県・松島町および女川町の計3カ所にて能楽の上演を行いました(※注3)。
今回特筆すべきなのは、松島町での活動です。実際には松島町の住民さんへの支援活動ではなく、石巻市立女子高等学校の還暦記念同窓会が、同町のホテル「大観荘」にて開催され、これにプロジェクトが招聘されて能楽の上演を行ったものです。被災地の団体から招聘を受けての訪問活動はこれが初めてで、我々プロジェクトの活動が被災地、わけても石巻市で浸透してきた証しと申せましょう。還暦記念の同校同窓会は本来昨年開催されるはずでしたが震災によって中止となり、1年後の今回、満を持しての開催となりました。同窓生の中には震災の犠牲者もあり、追悼と、還暦のお祝いと、二つの性格を持った同窓会とのことで、中心メンバーの方とご相談のうえ、未来への希望を託して祝言の能『嵐山』を上演させて頂きました。活動の期間は東京でも舞台公演で忙しい時期でプロジェクトのメンバーは八田以外すべて差し支えで、長男・和弥と家内・佳子の八田の家族による活動となりました。被災地で活動するプロジェクトメンバーの家族が実際に被災地を訪れて現状を目にする事は、今後の活動への意思の共有に意味があると考えます。
八田も活動の前日には東京で大きな舞台があり、終演後に東北地方へ深夜走行するのは無理な状況でしたが、同窓会関係者からは交通費・宿泊費の援助を頂きました。さらには、せっかく東北地方を訪問する機会ですので、同窓会の翌日に活動をしたい旨お願いしましたが、これも快く了承頂き、6月に活動し、また8月にも表敬訪問を行った女川町での活動が実現致しました。同校同窓会関係者の方々には厚く御礼申し上げます。
また女川町では町民野球場仮設住宅での活動を予定していましたが、訪問直前に女川町商工会、観光協会さまより「きぼうのかね商店街」(仮設商店街)での活動を依頼されました。我々の活動が信頼を受けている事を喜び、活動の機会を与えてくださった女川町の関係各位のご厚情に深謝申し上げます。
女川町では商工会と観光協会、女川町復興支援センターさまより上演活動の宣伝、機材の提供から運搬まで全面的なご協力を頂きましたほか、野球場仮設にお住まいで「きぼうのかね商店街」にて釣具店を経営されておられる佐々木英子さまに楽屋の提供、開演前と上演中の後見のお手伝いを頂きましたが、さらには出演者の昼食までご用意頂くなど、大変心のこもったご支援を頂きました。また松島町での活動では、同町在住の協力者Fさん(匿名を希望しておられます)が出演者の移動、公演の後見としての献身的なお手伝いを頂きました。併せてご報告申し上げます。
※注1 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。ただしスケジュールの都合により今回は八田の家族での活動となった。
※注2 今回の上演場所は①松島町・ホテル大観荘②女川町・きぼうのかね商店街③女川町・町民野球場仮設住宅の3箇所。
【活動記録】
10月21日(日)
八田達弥、八田和弥、八田佳子の3名は早朝に東京を出発、新幹線にて仙台を経由して東北本線にて松島町に到着。F氏に送迎頂き同窓会会場のホテル「大観荘」へ。同窓会関係者にご挨拶ののち上演準備。
17:30より「石巻市立女子高等学校卒業生還暦を祝う会」開催。隣室にて犠牲者追悼の法要が営まれたあと、お祝いのパーティーとなる。能『嵐山』の一部を上演。
終演後、F氏のご協力によって石巻に至り、石巻観光協会、チーム神戸さまにご挨拶。翌日のスケジュールがタイトであるため。門脇、湊地区視察の後仙台に移動してF氏とお別れし、ビジネスホテルに投宿。
10月22日(月)
早朝起床して仙台駅近くにてレンタカーを借り、一路女川町へ。
「きぼうのかね商店街」にて関係者にご挨拶の後、佐々木釣具店を楽屋に拝借。11:00より「能楽鑑賞会」として能『嵐山』の一部を上演。拡声機器の貸し出しなど女川町の強力な支援協力を頂いた。上演には石巻市在住の協力者・相澤利喜子さん、東松島在住の能面作家木村健人氏もお出まし頂き、終演後に旧交を温めた。町民野球場仮設住宅へ移動。途中女川町中心部の被災地域を視察。
町民野球場仮設では前回の上演場所である集会所ではなく「坂本龍一マルシェ」の巨大なテントの中での上演とさせて頂いた。ボランティア出身の伊藤恵悟氏、矢竹拓氏に今回も事前の交渉から当日の上演のお手伝い、住民さんのご案内など多方面でのご協力を頂いた。集会所での上演準備のあと時間があったので佐々木英子さんのお部屋にお邪魔させて頂き、震災によって亡くなった夫君・貝廣さまのご位牌にお線香と独吟『江口』を手向けさせて頂く。13:30より「能楽の心と癒やしをあなたに」公演 能『嵐山』の一部を上演。終演後は集会所に場所を移して住民さんに装束の着付け体験など行う。
終演後、女川町より急いで仙台へ戻り、レンタカーを返却。今回は活動費の節約のため鉄道には格安チケットを利用し、そのため利用できる新幹線の便が限られていた。女川町での活動機会が直前に増えたため、移動スケジュールはかなり厳しくなったが、当日は余裕を持って仙台駅に到着することが出来た。予定通りの新幹線に乗って夜遅めに東京に戻り、今回の活動を無事に終えることが出来た。
【収入・支出】
プロジェクトの活動は基本的に募金によって行われております。募金は基本的にプロジェクトのボランティア活動資金(以下「ボラ」)として使わせて頂きますが、とくに被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)はプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体に寄付させて頂きます。
プロジェクトの活動資金としては、前回活動繰越金として 103,371円(内訳:ボラ 70,871円 ギエ32,500円)があるほか、前回第9次支援活動のあと銀行口座へおふた方より計15,000円を頂戴し、また11円の預金利息があったため、計118,382円(内訳:ボラ85,882円 ギエ32,500円)が第10次活動の前に計上されております。
今回は上記の通り「石巻市立女子高等学校卒業生還暦を祝う会」さまの招聘による活動で、交通・宿泊費として70,000円の資金提供を頂きました。活動による支出は後掲の通り交通費52,381円、宿泊費15,000円で、この結果 収支の差額は2,619円の黒字となりました。支出の明細につきましては別紙「決算報告書」にて改めてその内訳を明示致しますが、今回の活動終了時で残額 121,001円(内訳:ボラ88,501円 ギエ32,500円)となっております。これらは今回の活動繰越金として計上し次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。関係者各位に対し、厚く御礼申し上げます。
これに対してプロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費につきましては高速道路の通行料、ガソリン代の全額をプロジェクトの負担としておりますが、交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するようにしました。
宿泊につきましても通常は住民ボランティアさま等のご厚意により無料、または安価での宿泊を旨としております。しかしながら今回は八田長男(未成年者)の参加もありましたため、被災地での活動という過酷な状況の影響も考慮し、ビジネスホテルでの投宿とさせて頂きました事をご報告申し上げます。
前述の通り収支差額として 121,001円(内訳:ボラ88,501円 ギエ32,500円)が出、これは今後の被災地訪問の活動資金として活用させて頂きますが、今後の活動にはますます資金的に困難な状況が予測されます。引き続きまして活動支援をお願い申し上げる次第です。
【成果と感想・今後の展望】
プロジェクトとして第10次となる今回の支援活動は、被災地の民間の団体からの招聘という名誉を頂きました。活動資金も頂戴したうえ、喜ばしい還暦記念の同窓会に一役を頂戴したことは復興のひとつの象徴とも思え、大変ありがたく拝承させて頂きました。同窓会では震災犠牲者のための法要も行われましたが、その後は旧友や恩師との再会に大変賑やかで笑いの絶えない催しとなり、お手伝いすることができて良かったと思います。
女川町では当方からの活動場所提供のお願いに対して現地の関係者さまより、初めての活動となる「きぼうのかね商店街」での活動の場も与えて頂き、宣伝や機器の利用・運搬まで、手厚いご支援を頂きました。また住民さんの佐々木英子さまにも個人の立場から上演楽屋の提供、後見としてのご助力など、心細やかなご協力を頂きました。さらに佐々木さまには特にお許しを頂き、仮設住宅のお部屋にお邪魔させて頂き、亡きご主人さまにお手向けをさせて頂いたのも感慨深いことです。松島町での活動で献身的なご協力を頂いたF氏や、わざわざ女川町の活動にお出まし頂いた石巻の相澤利喜子さん、東松島市の木村健人さんなど、市民のみなさまの信頼を得てご協力を頂きながら活動できるようになった事は、1年4ヶ月前に知人ひとりいない状況で活動を開始した頃のことを考えれば隔世の感があります。各位のご厚情に改めまして深謝申し上げます。
今回の活動では多忙の時期でもありプロジェクトメンバーがまったく参加できませんでした。そのため活動は八田の家族が参加することになりました。現地の状況を考え、宿泊はビジネスホテルを利用したり、経費の面で難しい問題もありますが、支援活動を行っている八田を支える家族が実際に被災地に赴いて現状を実見することは今後の活動についても、また個人としてボランティア活動について考える機会としても意味のある事だったと思います。
滞在、活動はわずか2日間のことではあり、またスケジュールはかなりタイトなものだったと思いますが、このように活動の内容は相当に充実したものとなりました。これもひとえに現地関係者および住民さんや友人など多方面の献身的な協力により実現できたものです。プロジェクトとしては「文化の復興」というひとつの指針をもっての活動を指向しておりますが、感謝の心をもって息長い活動を続けてゆければ、と考えております。今後とも各位のご支援をお願い申し上げる次第です。
平成24年12月30日
「能楽の心と癒しプロジェクト」
代表 八田 達弥
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