のすたる爺や

文明の果てなる地からのメッセージ

イワン・スサーニン

2014年04月23日 | 日記・エッセイ・コラム

 国境を接する国同士が仲がよいなんてことはありえないもので、仲がよければ国境など生まれません。日本と中華圏の軋轢など世界レベルから見たら些細なものです。

 

 20世紀、世界に多大な混乱を巻き起こしたソビエト。旧東側諸国でソビエトを快く思っている国などないでしょう。

   ロシアとドイツの間にポーランドと言う国があります。強国の間で翻弄される国ですが、ロシア人の姓に多い~スキー、~スカヤさんはポーランド系の姓です。

 

  プロイセン(ドイツ)とロシアの軋轢などはこのポーランドの奪い合いのようなものでしたが、是非次回のワールドカップヨーロッパ予選はドイツ、ロシア、ポーランドにウクライナとバルト三国を同じグループにして競わせて見たいものです。

 

 面白いことに(当然かもしれませんが)、ロシア人はポーランドを侵略したなんてこれっぽっちも思っておらず、「ポーランドはロシアを侵略したとんでもない国だ」と言い放ちます。確かに、ポーランドはロシア人の元祖ウクライナを支配したこともありましたし、17世紀のロシアの混乱期にはポーランドがロシアに侵攻しようと狙いましたが、記憶に新しいのは20世紀にロシア(ソ連)がポーランドを衛星国という名の属国にしたほうではないでしょうか?

 

  やったことは憶えていなくてもやられたことは憶えている、とすれば、あらゆる近隣諸国と領土争いや一戦交えてきた中国なんか、よくのうのうと日本のことを言えるものだと思います。

 

 イワン・スサーニンという英雄がいました。ロシアでは誰しもこの人の偉業を知っているし17世紀初頭の英雄で、たとえ話にもよく出てくる名前です。

 

 イワン・スサーニンはコストマの小作農夫でしたが、ロシアの動乱に乗じて入り込んできたポーランド軍に捕まり、モスクワへの水先案内をさせられます。

 

    「この道がモスクワへ通じる道だ」と、とんでもない密林の奥地にポーランド軍を引き込み、「騙された!」と気がついたポーランド軍に処刑されてしまいますが、とき既に遅く、密林は猛吹雪に見舞われてポーランド軍は壊滅してしまいます。

 

   たった一人の男が国を守った偉業を、グリンカは「皇帝陛下に捧げた命」というオペラに仕立て、ソビエト時代には”皇帝陛下”では具合が悪いので、歌詞の内容を一部変えて「イワン・スサーニン」と言う名に変えて、国への忠誠心のプロパガンダに利用しました。

   単なる農夫とはいえ、ポーランド軍はなぜ簡単にイワン・スサーニンの水先案内を信用したのか?本当にポーランド軍を陥れるために密林へと誘い込んだのか?表向きはイワン・スサーニンの偉業を歌いながらも、裏では「怪しい」と疑ってかかるのがロシア人。多分お調子者のチャイニーズのような男だったのでしょう。

 

   領主に虐げられてきた中世の農夫ですから、「国が云々」なんて関係なくポーランド軍においしいものをいただければ簡単に寝返る。だからこそ、ポーランド軍も信用して後に続いたわけで、イワン・スサーニンもあわよくばポーランドがロシア皇帝を倒して、自分が良い待遇で召抱えられることを打算していたかもしれません。

 

   意図的にではなくマジに道を間違えて、とんでもない密林の奥地へとポーランド軍を案内したのではなかろうか?モスクワがどの方角にあるかはわかっていても、行ったことなんかなかったでしょう。

 

    途中「道を間違えたかな?」と思っても、引き連れてきた軍人に「ゴメンネ」とは恐くていえません。しかたないから「この道で間違いない!」と言うしかありません。開き直るコリアンのような性格だったんでしょう。

 

   結果、道を間違えたことがばれて処刑されてしまったものの、ポーランド軍も密林の中に取り残され、食料も尽き、天候も悪化し全滅してしまったと言うのが本当ではなかろうか?と冷ややかに考えるロシア人。

 

   でも、道を間違えたイワン・スサーニンと同じく、「本当はこうなんだ」と恐くて言えず、ソビエトのプロパガンダにあわせてイワン・スサーニンはロシアを救った 英雄だ!と歌っていたら、今度はソビエトが壊滅してしまいました。

 

 自動車で走っていて道を間違えた時”イワン・スサーニン”の名前が会話に出てきます。私など方向音痴で、街場に出ると良く道を間違えて戸惑いますが、横で「スサーニン!イワン・スサーニン!」と揶揄されます。最初は道を間違えたと言う意味のロシアのスラングなのかな?と思っていましたが、こうした故事の例えだったんですね。

 

   ならば、と、逆手にとって、”道を間違えたかな?”と思ったときはこちらから”ヤー イワン・スサーニン(私はイワンスサーニンです)”と言うと妙に受けまくります。カーナビのことをイワン・スサーニンと紹介しても大笑いです。

 

 思えば歴代ソビエトの書記長こそ20世紀のイワン・スサーニンだったと思います。

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