田園城郭都市構想21

2017年02月15日 | 湖と城郭都市

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-
6.世界遺産登録に向けた取り組み
7.街道と湖上交通と都市形成

6-1 世界遺産登録制度
6-2 世界遺産登録と国内事例
6-2-1 「白川郷」の場合

②「合掌造り」保存運動と
    荻町地区の「文化遺産」化

この準備には、保存しようとする地区の学術的な調査(伝
統的
建造物群保存対策調査)だけでなく、
荻町地区の住民
の合意を得ることも含まれていた。この伝統的建造物群保
地区制度は、従来の文化財の指定制度のように文化庁の
判断によって指定されるものではなく、当該地区住民
の保
存への合意に基づいて市町村が保存地区を決定した後、文
部大臣に重要伝統的建造物群保存地区選定の申請書を提出
し、文化財保護審議会の諮問を経て選定されるという形を
とるものだったからである(白川村史編さん委員会編、19
98;文化庁,2001)。住民の合意形成は、近隣組織である
7つの組ごとに行われた。板谷静夫さん所蔵の当時の資料
「伝統的建造物群保存地区指定(選定)に関して荻町区民
との懇談会経過報告」によれば、選定後にかけられる規制
によって生活が不便になることを懸念しつつも、観光客の
増加による地域経済の向上に期待して、合意に達したよう
である
 

こうして荻町地区は,1975年の文化財保護法の改正で導入
されたぼかりの伝統的建造物群保
存地区制度によって、76
年に最初の重要伝統的建造物群保存地区(以ド「伝建地区
」)の一つと
して選定された。「伝建地区」としての名称
は,「白川村荻町」である。世界遺産になるには国内
法規
で管理されていることが前提条件となっており、基本的に
は国指定レベルの文化財でなけれ
ば世界遺産に推薦される
ことはない。よって、この選定が,荻町地区が95年に世界
遺産に登録
される契機の一つとなったといえる。

③ 「守る会」委員会における「現状変更行為」の審議

「伝建地区」に選定されて以来、荻町地区の人々には「現
状変更行為」に関する様々な規制が
課せられるようになっ
た。荻町地区の人々が「現状変更行為」を行おうとする際
には、「現状変
更行為許可申請書」を「守る会」委員に提
出し、「守る会」委員会での審議を受けて,白川村教
育委
員会から許可をもらわなければならない
。ただし、白川村
教育委員会は「守る会」委員会で
の審議結果をほとんどそ
のまま採用することになっているので、実質的に許可/不
許可の判断を
下しているのは、「守る会」委員会というこ
とになる。

「守る会」委員会は、毎月1回、平日の午後7時もしくは
7時半から、荻町多目的集会施設で行われる。終了時刻は
決まっておらず、討議が白熱した場合には、深夜まで及ぶ
こともある。この実際の審議の場では、「景観」という言
葉を非常に頻繁に耳にする。ほとんどの「現状変更行為」
において、景観に合うか否かが許可を与えるかどうかの重
要な指標の一つになっているからである。ただし、景観に
合うか否かという議論は、しばしば個々人の感覚的なもの
に頼ってしまいがちである。しかし、「守る会」委員会に
おいては、討議を繰り返す中で、委員各々の感覚的なもの
から発せられたイメージが重なり合い、共有されることに
よって、一つの明確な像一すなわち、最も景観に合うもの
一が導き出されている。

例えば、世界遺産登録後に行われた電線の地下埋設に伴っ
て新しくつくられた街灯についても、支柱の材質や色から
電球の種類や色・形・大きさまで、「守る会」委員会にお
いて何時間もかけて討議された結果,ようやく設置された
のである。

その審議の際に参照されるのが、表1のような規制である。
ただし、審議がこのような明文化された基準にしたがって
杓子定規に行われるかというと、そうではない。例えば、
公共物と私有物では、「守る会」委員会の対応は全く違う。
公共物に関する申請書に対しては、「白川村荻町伝統的建
造物群保存地区景観保存基準」などの明文化された基準や
「守る会」委員の景観に合うか否かの感覚に照らし合わせ
て、厳しく吟味される。

一方、私有物に対しては、申請者それぞれの個人的事情や
過去の経緯、人間関係に対する配慮なども加味され、時に
は明文化された基準が脇
に置かれる形で、許可/不許可が
判断されることもある。

「守る会」委員会が、特に私有物に対してこのような柔軟
性を示すのは、「守る会」委員会が基
本的に「住民生活重
」という立場に立っているからである。この基本的スタ
ンスは、「合掌造
り」を観光資源として活用しつつ残して
いこうと考えた「守る会」発足時から変わっていない。

だ、こうした柔軟性は,時として不公平感に繋がり、住民
の不満の対象となることもある。し
かし同時に、住民間の
不平等感を是正したり,住民問の軋轢に繋がりかねない問
題を解決したり
することにも役立っている。そしてそれが
結果的に,多少逸脱した形かもしれないが,景観の「保全」」

に繋がっているのである。

1971年に「守る会」が発足し、76年に「伝建地区」に選定
されて以来、荻町地区の人々は、
景観保全に腐心してきた。
「伝建地区」になる前にある程度予想されていたこととは
いえ、自ら
の生活の場に数多くの規制があることの困難さ
は想像に難くない
。そのため、世界遺産登録に向けた住民
への説明会が行われた時、荻町地区の人々の間からは規制
が強くなることを心配する声
があがったという。もちろん
その際は、世界遺産への登録は国内法規によって守られて
いるもの
が対象であり、世界遺産になっても今まで以上に
規制が厳しくなることはないという説明がなさ
れた。しか
し、 実際は違ったのである。

                             この項つづく

【エピソード】



湖上に長さ30間の大船を浮かべた織田信長は直ちに小さな
船に解体してしまった。その理由は何だったのか?滋賀県
立琵琶湖博物館専門学芸員の著者が、発掘資料をもとに新
たな視点から琵琶湖の古代・中世の湖上交通史を再整理。

【脚注及びリンク】
-----------------------------------------------------  

  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 世界遺産の保全と住民生活-「白川郷」を事例とし
    て-」才津祐美子、福岡工業大学、環境社会学研究
    (12)、 23-40、2006-10-31)
  3. NPO法人 彦根景観フォーラム 第4回世界遺産を目
    指す彦根の課題
     2008.02.29
  4. 世界遺産所在自治体の保全と観光活用に関する取組
    事例集 国交省観光庁 2014.10.24
  5. 世界遺産登録による経済波及効果の分析 えひめ地
    域政策研究センタ 2007.01.11
  6. 世界遺産登録と持続可能な観光地づくりに関する一
    考察『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会)
    新井直樹 第11巻,第2号,2008年9月
  7. 世界遺産を活用した観光振興のあり方に関する研究
    運輸政策研究所 第35回 研究報告会 小室充弘
    2015.08.05
  8. 世界遺産登録に向けた取り組み(2014年度)彦根市
  9. 世界遺産に登録されるまで|世界遺産検定 NPO法
    人 世界遺産アカデミー
  10. 高句麗平壌城の都市形態と設計 閔徳植、 国際日本
    文化研究センター学術リポジトリ
  11. 松本市の都市計画 松本市
  12. ひこにゃんがいてもダメ? 彦根城はなぜ世界遺産
    になれないのか 週刊朝日 2013年6月28日号
  13. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー前編 2007.03.02
  14. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー後編 2007.03.09
  15. 第1回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.05
  16. 2回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.07
  17. 第3回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.19
  18. 第4回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.26
  19. 第8次彦根市交通安全計画 2012,03.22
  20. Core Strategy (2013) - Milton Keynes Council
  21. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  22. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  23. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  24. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  25. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  26. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  27. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  28. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  29. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  30. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  31. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  32. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  33. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  34. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  35. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  36. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  37. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市 橋梁長寿
    命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  38. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  39. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  40. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  41. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  42. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  43. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  44. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  45. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  46. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  47. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  48. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  49. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  50. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  51. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  52. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  53. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  54. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  55. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  56. 彦根市立図書館|簡易検索
  57. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  58. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と展望
    2014.11.26
  59. アウガ Wikipedia
  60. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  61. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  62. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー
  63. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北
    新聞 2016.01.28
     
            

-------------------------;--------------------------