田園城郭都市構想 13

2017年02月03日 | 湖と城郭都市

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-

5-4-1 下院レポート
     『ニュータウン:その諸問題と将来』

② ニュータウンの諸問題-物的なニーズ

・全てのニュータウンでの分散的で低密度な開発、異な
  る用途
を隔離する計画が、伝統的な都市に比べて住民
 の移動距離を増大させ、結果的に過度な自動車への依
 存とプアな公共交通サービスという大きな問題を招い
 ている。
・ニュータウンのセンターの多くが全くと言ってよいほ
 ど魅力を欠き、結果として他地域への消費の流出を招
 いている。質の高い公共空間、伝統的な通りとミクス
 トユース、そして多様なレジャー・アクティビティを
 創出するような再生プランが必要とされている。
・ニュータウンの多くの住宅が時間の評価を受けること
 もなく、「革新的な素材」と「革新的なデザイン」の
 採用のもとに建設された。それらは今では取り壊しか、
 大規模な改造を要するものとなっている。大量の住宅
 が耐用年限を過ぎつつあり、今後段階的に再開発をす
 すめていく必要がある。
・歩車分離を意図したラドバーン・レイアウトはニュー
 タウンで集中的に用いられてきた。結果的に住宅は歩
 行者路にのみ面し、背後のパーキングに監視の目が行
 き届かず、犯罪や反社会的行為の焦点となっている。
 また、多くのニュータウンで重要な要素とされている
 緑地空間や歩行空間も防犯性・安全性の問題を生じさ
 せている。
・地方自治体はニュータウン開発公社から受け継いだ住
 宅地に関する近マネジメントの問題を抱えている。そ
 の原因は、1980 年代の ”right to buy(公営住宅払い
 下げ)”と公社解散の直前に行われた “fire sale(駆
 け込み販売)”によって引き起こされた所有権の錯綜
 状況(持家、社会住宅、民営借家の混在)にある。こ
 のことが住宅地のメインテナンスを困難にしている。
 長期間のメインテナンスを確実にするための運営及
 び投資の仕組みを確立することが重要である。

③ ニュータウンの諸問題-社会的・経済的なニーズ

・ロンドン周辺のニュータウンは、強い地域経済の恩恵
 によ
って全体的に繁栄しているものの、部分的には高
 レベルの
貧困地区を抱えている。またこれらのニュー
 タウンのいく
つかには、アフォーダブル・ハウジング
 の不足という問題
が生じており、新たな社会住宅を大
 量に供給するためのプ
ロジェクトが求められている。
・幹線交通網に近接し、タウンセンターが地域の経済セ
 ンタ
ーとして発展しているニュータウンでも、部分
 的に深刻な
貧困エリアを抱え、住宅価格の暴落や住宅
 放棄などが生じ
ており、小規模な貧困エリアへの対策
 が求められている。

・北部・中部イングランドの多くのニュータウンは、そ
 のポテ
ンシャルを発揮できず、計画目標人口にも遙かに
 届かず、高
レベルの失業率と貧困に当面している。

④ ニュータウンの継続的なマネジメント

・1977年から1992年の間に全てのニュータウン開発公
 社が
解散し、地方自治体が大半の責任と社会住宅を引
 き継いだ。
しかし、それらを維持するために必要な収
 入が不足してい
る。ニュータウンの資産を引き継いだ
 ニュータウン委員会
1999English Partnerships に再
 編)は、公社の仕事を
引き継ぐより、未処分の用地を
 処分することに集中し、そ
れらによる収入はニュータ
 ウンに再投資されることもなく、
国庫に納められてき
 た。English Partnerships によるこれま
での資産管理の
 方法を根本的に改め、資産処分収入を「ニ
ュータウン
 再投資ファンド」の創設にあてる等によって、
継続的
 なマネジメントの仕組みを確立する必要がある。

⑤ 将来の成長

・既存のニュータウンは、さらなる開発へのポテンシャ
 ルを
有している。我々は政府に対して住宅供給の目標
 を達成す
るために、既存のニュータウンの更なる拡張
 計画を推進す
ることを提案する。ただし今後の開発に
 おいては、開発公
社、English Partnerships による従来
 の土地の処分方法等は
採用されるべきではない

5-4-2 サステイナブルコミュニティ・
                 プラン2003

2003年2月、労働党政府の住宅・都市政策を主導するジョ
ン・プレスコット副首相は、住宅供給及びコミュニティ
環境の
総合的整備・改善等の広範な政策目標を掲げた「
サステイナブ
ルコミュニティ・プラン(The Sustainable
Communities Plan
)」
を公表した。この計画は、以下の
6つのテーマを掲げている。

・高品質の住宅と安全かつ魅力的な近隣環境の実現
・広範な地域に広がる住宅需要の停滞と空き家問題への
 対応

・より多く、より迅速なアフォーダブル・ハウジング
 供給

・田園地帯の保全と、アフォーダブル・ハウジングの確
  保

・ロンドン及び南東部地域での成長圧力への対応
・プランニング、地方分権、地域住宅戦略の再構築

※ アフォーダブル(affordable)は値段などが手ごろで
  ある意。
取得可能な、あるいは賃借可能な住宅。住宅
   価格・家賃水準の上昇に対応する政策の目標とされる。

計画の中心的な課題のひとつは、経済成長と雇用、人口
の伸
びが著しいロンドン及び南東部地域での住宅不足、
とりわけア
フォーダブル・ハウジングの著しい不足を
速やかに解決するこ
とであった。このために計画では、
「ロンドン及び南東部地域
計画(RPG9, 2001)」におい
て今後の成長センターとして位置
づけられた、Thames
Gateway, Milton Keynes & South Midland,
London- Stansted-
Cambridge, Ashford
の4つの成長エリア
Growth  Area
において集中的な投資を行い、2001 - 2016
の間に460,
000 戸の新たな住宅を供給することとして いる。

ロンドン周辺のニュータウン(Milton Keynes, Northamp-
ton,
Corby, Peterborough, Harlow )は、いずれもこの成長
エリアに
含まれている。各ニュータウンではサステイナ
ブルコミュニテ
ィ・プランに基づき、開発区域の拡張、
未処分用地の活用、既
存コミュニティの再開発計画と新
たな住宅供給計画の検討が
開始された。これらのニュー
タウンの拡張・再生計画は、前述
の下院レポートが提示
する方向に沿ったものとも考えられる。

このように、イギリスでは一度は終結されたニュータウ
ン政
策が「成長エリア」という概念のもとに再浮上し、
新たな展開
が図られつつある。しかし、成長エリアでの
開発は、かつての
ニュータウンとは異なる方向を目指し
ている。例えば事業主体
に関しては、ニュータウン開発
公社のように国主導の組織では
なく、自治体や住民組織
等を含む関係主体のパートナーシップ
組織等が検討され
ている。またかつてのような公共主導の住宅
建設ではな
く、積極的な民間活用がすすめられるであろう。用
地の
選定においてもグリーンフィールドではなく、ブラウン
ィールドの再生利用に重点が置かれている。

開発の形態もかつ
ての低密度開発ではなく、コンパクト
用途複合型持続可能
な開発形態が指向されている。
いずれも過去のニュータウンか
らの教訓を反映し、新た
な時代の要請に応えるものと言える。
2010年の保守党政
府への政権交代の後、南東部地域計画や
サステイナブル
コミュニティ・プランなどの主要計画が廃止、
あるいは
大幅に見直されることとなった。このため各ニュータ

ンの拡張・再生計画も大幅に修正されるなど、当初計画
のと
おりには進んではいないが、今後の動向が注目され
る。

注)サステイナブルコミュニティ・プランは最終的に
  2015年1月に廃止された。

                                      この項つづく

 
【エピソード】

 
 
  

【脚注及びリンク】
-----------------------------------------------------  

  1. 田園都市 Wikipedia
  2. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  3. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  4. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  5. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  6. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  7. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  8. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  9. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  10. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  11. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  12. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  13. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  14. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  15. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  16. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  17. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  18. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  19. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  20. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  21. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  22. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  23. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  24. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  25. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  26. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  27. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  28. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  29. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  30. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  31. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  32. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  33. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  34. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  35. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  36. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  37. 彦根市立図書館|簡易検索
  38. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  39. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  40. アウガ Wikipedia
  41. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  42. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  43. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー

  44. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
    北新聞 2016.01.28
     
     

-------------------------;------------------------