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9・3 公開シンポジウム「巨大震災は海洋沿岸の生物
にどのような影響を与えたか?
東日本大震災から学んだこと
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❏ 巨大津波による貝毒発生条件の変化と
その後の推移
神山孝史・筧 茂穂・奥村 裕(東北区水産研究所)
1.はじめに
2011年の東日本大震災を引き起こした大津波は東北地方太
平洋側の二枚貝養殖を壊滅させた。その後、養殖業は生産
者の努力と多様なサポートによって回復しつつあるが、生
産にかかわる問題もいくつかある。その一つが麻痺性貝毒
であり、宮城県仙台湾ではそれによる出荷自主規制が津波
発生後毎年実施され、震災前22年間事例がなかった気仙沼
湾でも貝毒が発生するようになった。東北地方での麻雄性
貝毒は、原因プランクトンであるアレキサンドリウム属が
海水中に増加し、それを二枚貝が捕食することで発生する
が、海水中に出現しない時期には海底の堆積物中でシスト
(底生生物)と呼ばれる値物の種のような状態で過ごし次
の出現の機会を待つ。
震災後の麻痺性貝毒の悪化は、大津波によって海底に存在
するこの原因種のシストの数が大きく変化したことによる
と推察される。ここでは宮城県仙台湾における麻痺性貝毒
の発生状況と海底のシストの量と分布について、震災前後
の変化とその後の推移を紹介する。
2.研究経過と成果
津波直後の2011年6月および8月に仙台湾の広い範囲で海
底表層泥を採取し、アレキサンドリウム属のシスト(底生
生物:上写真)の数を調べた。震災前である2005年に宮城
県水産技術総合センタが実施した調査結果と比較すると津
波後の海底のシストの密度は大幅に増加し、津波後のその
最高値は津波前の10倍近い値に達した。また仙台湾北部
の中心域にあったシストの高密度域が湾の南西部に移動し
た。この海底表層のシスト密度の増加は、海底深部に埋も
れていたシストが巨大津波によって海中に巻き上げられ、
その後他の粒子よりも軽いシストがまとまって再堆積した
結果、表層付近の海底に集積されたと推察された。
津波前3年間、宮城県仙台湾北部の定点ではアレキサンド
リウム属の出現密度は少なく、麻痺性貝毒の検査値も出荷
自主規制値を上回ることはなかったが、津波翌年からプラ
ンクトンの最高密度は大きく増加し、毒量も規制値を超え
ることがほぼ毎年続いている。このことから、津波が表層
海底のシストの増加をもたらし、シストから海水中に出現
するプランクトン量が増加し、それを捕食する貝類の毒量
も増加する現象が津波後に続いたと考えられる。
その後の状況を把握するため、2015年と2016年に再度、海
底泥のシストの分布調査を実施した。その結果、震災直後
認められた南西域の高密度域は消失し、比較的密度の高い
海域が湾の東部の沖合域に移動していることが判明した。
以上より、仙台湾におけるアレキサンドリウム属シストの
量と分布は津波後から数年間で大きく変化したと考えられ
る。アレキサンドリウム属のシストの水平分布の変化は、
海流によるシストの輸送と新たにプランクトンから供給さ
れることによる複合的な要因で起きていると解釈される。
これらの状況が、北部沿岸の貝毒発生にどのよ引こかかわ
り、今後、貝類養殖業にどのような影響を及ぼしていくか
が重要であり、そのためのこうした現象の理解をさらに深
める必要がある。
ホタテガイやカキなどの貝類が毒を持ったプランクトンを
補食すると、体内(特に中腸腺)に毒が蓄積する。毒が蓄
積した貝類をヒトが食べると、中毒症状を引き起こすこと
があり、原因毒及びその症状により、❶麻痺性貝毒、❷下
痢性貝毒等に分けられる
• 麻痺性貝毒の主な症状: 唇、顔面、四肢末端のしびれ感
、めまいなど
• 下痢性貝毒の主な症状: 下痢、吐き気、嘔吐、腹痛など
毒は熱に安定で、一般的な調理
加熱では分解しない。
Oct. 25 ,2005
【脚注及びリンク】
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- 滋賀県立大学で公開シンポジウム「巨大震災は海
洋沿岸の生物にどのような影響を与えたか?東日
本大震災から学んだこと」を開催、河北新報オン
ラインニュース - 津波後の貝毒発生状況の変化と今後の行方、神山
孝史 2014.02.12 - 宮城県における震災後のアサリ幼生・稚貝の動態
水産総合研究センタ 「東北区水産研究所」 - 滋賀県出身の人物一覧 Wikipedia
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