田園城郭都市構想 18

2017年02月10日 | 湖と城郭都市

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-



The Kingdom of Ryukyu Gusuku Sites and Related Properties

6.世界遺産登録に向けた取り組み

6-1 世界遺産登録制度

彦根市では、1984年策定の保存管理計画を2カ年計
画で抜本的に見直すこととし、外部有識者6名によって
構成する「特別史跡彦根城跡保存管理計画・整備基本計
画検討委員会」を新たに設置し検討に着手しているが、
2014年6月、「顕著な普遍的価値」の証明のための
国内外の類似資産の比較研究と資産の分析について複数
の専門家から以下の3つの説明を受けている。

  1. 城郭のみでは、単独でも複数でも、登録は難しい
    千件に上るこれまでの登録テーマとも、日本の城
    郭や庭とも、全く異なるコンセプトを探求すべき
    である。幸い彦根市には他の城にない江戸時代の
    都市計画、行政機構や文化政策を雄弁に物語る多
    くの遺産がある(フランス・イコモス事務局長)
  2. 「封建領主の精神的・文化的生活」のような方向
    性で考えるのがよい(同上)
  3. 韓国でも支配者層による文芸の振興があり、支配
    者層による社会の文化的交流の比較等を基礎にし
    た構想も考えられる(ユネスコ世界遺産センター・
    アジア担当官)

ここで、そもそも世界遺産制度と何か?を考えてみよう。
「世界遺産」とは、1972年のユネスコ総会で採択された
「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(
世界遺産条約)に基づきいて世界遺産リストに登録され
た、遺跡、景観、自然など、人類が共有すべき「顕著な
普遍的価値」を持つ物件のことで、移動が不可能な不動
産やそれに準ずるものが対象になると規定されているが、
前述の通り2014年には世界遺産の登録件数が千件を突破。
2016年の第40回世界遺産委員会終了時点での条約締約国
は192か国、世界遺産の登録数は1,052件(165か国)とな
っている。


● 世界遺産リスト登録手続きと登録後の保全

世界遺産リスト登録に必要となる前提、審査の流れ、登
録後の保全状況報告などは、「世界遺産条約履行のため
の作業指針」(以下「作業指針」)で規定されている。
登録までの流れを図示すると以下のようになる(「登録
さるまで」、願ダブクリ参照)。



しかし、この制度にも、①種類と地域の偏りがあり「顕
著な普遍的価値」の再定義や、偏り是正の動きがある。
②世界遺産の登録数に上限設定がない反面、その「顕著
な普遍的価値」を認めにくい物件や価値を裏支えするス
トーリーが理解しづらい物件が増えている、③景観や環
境の保全が義務付けられ、周辺開発との間で摩擦が生じ
る、④世界遺産は保全が目的で、観光開発促進は趣旨外
で、「世界遺産を守る持続可能な観光計画」作成是正の
動きなどの課題がある。



妻籠宿

● 日本の文化遺産保護制度 

それでは、日本の文化遺産はどうだろうか?日本国政府
による文化遺産保護制度は、制度の原型は明治時代に創
設、時代情勢を反映した改正を経て今日に至る。現在の
制度は1950年に文化財保護法の制定により規定(包括的
な制度は主要国では他に例がないとされる)。文化財保
護法が規定している天然記念物の制度は自然保護制度と
も隣接し、これを所管する環境省との間で調整が図られ
ている。文部科学省および文化庁が所管する制度の他に
も、文化遺産保護に関連する制度がある。

以上の2項を踏まえておく必要があるだろう。

さて、2015年1月、世界登録作業部会の成果踏まえ、

ネスコ世界遺産センタ及びイコモス専門家との再度意見
聴取を行い、以下の5つの集約見解をうけ公開している。

  1. 姫路城がすでに登録されているので、彦根市は姫
    路とは独自のコンセプト登録をめざし、「例外的」
    な文化的価値を示す必要がある。そのために、資
    産の「科学的・技術的」かつ詳細で緻密な分析を
    し、国内外の比較を深め、普遍的価値が彦根市の
    史跡および文化遺産のみによって「証明」できる
    ことを示す必要がある。単なる歴史描写や主観的
    な評価は、世界遺産登録プロセスに貢献しない。
    彦根市は、中世・近世城郭都市について、国内外
    の科学的・技術的比較研究を行い、城と関連資産
    の普遍的価値を抽出すべきである。国際比較には、
    ヨーロッパおよび韓国を入れるべきであろう (フ
    ランス、イタリアの建築専門家)。
  2. 城郭の比較研究は、歴史、建築学および美術史等
    の専門家から総合的に行うべきである。日本の城
    については、英訳された著書が多くあり、以前か
    らそれを読んでいた。彦根城は、軍事施設という
    より権力のシンボルとしての役割をはたしている
    ように思われる(フランスの城郭専門家)。
  3. コンセプトに対応する構成資産の分析保存管理
    を同時進行させ、集中して行う必要がある。
    登録に向けて必要な作業を貫徹させる勢いが必要
    (フランス・イタリアの専門家)。
  4. 日本の専門家および文化庁の意見を聞き、協力と
    言を得ながら、比較研究や資産分析を進めるべ
    きである(イタリアの建築専門家、フランスの城

    郭専門家)。そのためこれら専門家と海外の専門家
    の参加する準備会合を開くべき(イタリアの建築
    専門家)。
  5. 250年間安寧が続いた江戸時代における彦根藩の役
    割と城のシンボル的な役割や、寺社その他の文化
    的・精神的伝統を通した藩内社会的調和を築い
    た統治方法および文化を通した交流政策が注目さ
    れる(ユネスコ世界遺産センター)。


                            この項つづく

【エピソード】

     

観光産業の活性化なら「群・織豊徳政権時代」の文化遺
産として、リトライ展開(オール滋賀)した方が、①情
報交通・官民連携・住民福祉的側面の現実社会と、②文
化遺産(あるいは「文化資産」)保護、③持続可能な社
会とのトライアングルなバランスは取りやすいように思
えるが。


【脚注及びリンク】
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 世界遺産に登録されるまで|世界遺産検定 NPO法
    人 世界遺産アカデミー
  3. 世界遺産登録に向けた取り組み(2014年度)彦根市
  4. 高句麗平壌城の都市形態と設計 閔徳植、 国際日本
    文化研究センター学術リポジトリ
  5. 松本市の都市計画 松本市
  6. ひこにゃんがいてもダメ? 彦根城はなぜ世界遺産
    になれないのか 週刊朝日 2013年6月28日号
  7. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー前編 2007.03.02
  8. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー後編 2007.03.09
  9. 第1回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.05
  10. 2回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.07
  11. 第3回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.19
  12. 第4回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.26
  13. 第8次彦根市交通安全計画 2012,03.22
  14. Core Strategy (2013) - Milton Keynes Council
  15. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  16. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  17. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  18. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  19. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  20. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  21. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  22. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  23. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  24. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  25. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  26. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  27. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  28. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  29. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  30. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  31. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市 橋梁長寿
    命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  32. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  33. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  34. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  35. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  36. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  37. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  38. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  39. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  40. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  41. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  42. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  43. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  44. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  45. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  46. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  47. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  48. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  49. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  50. 彦根市立図書館|簡易検索
  51. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  52. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と展望
    2014.11.26
  53. アウガ Wikipedia
  54. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  55. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  56. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー
  57. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北
    新聞 2016.01.28
     
         

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