1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
3.日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
-理想都市像の変遷-
5-3 ヨーロッパのニュータウン再生
-ENTP 報告書から
5-3-2 ニュータウンの当面する主要課題
① 第8位:経済的ライフサイクルの断絶
今日のニュータウンでは、経済成長の多くがコミュニテ
ィ内部のスモールビジネスによってもたらされている。
彼らは自宅やガレージから仕事を始める。しかし彼らが
成長すると、古い建物のような利用可能な場所をニュー
タウン内では見つけることができず、町を離れていかざ
るを得ない。同様に①ニュータウンにはクリエイティブ
なクラス、②サブカルチャーが使用できるスペースがな
い。
創造性は現代の経済にとって重要であるだけに、問題が
大きい。ニュータウンの経済成長のために、ガレージと
オフィスビルの間のギャップを埋めること、サブカルチ
ャーの存在するスペースを創りだすことが求められてい
る。
② 第7位:公共施設整備の立ち遅れ
成熟した古い町は、文化、ケア、福祉、健康、教育等の
広範囲な公共施設を整備するために、数十年間、さらに
は1世紀を要している。多様で幅広い公共施設が十分に
整えられるには時間を要するものだ。しかし、しっかり
と計画され尽くした都市は、住民のニーズの変化に対応
する機会及びスペースをほとんど有していない。また新
たな投資のシステムも欠如している。公共施設整備のた
めの空間と資金の確保が求められている
③ 第6位:ニュータウンの「思春期」
多くの国でニュータウンはその建設時に国の投資プログ
ラムなど、特別のステータスを与えられてきたが、それ
が終了して以後、ニュータウンはその「思春期」にある
ように見える。ニュータウンの都市再生に取り組むため
に、継続的な投資、柔軟な投資、予防的投資の仕組が求
められている。
④ 第5位: “hood(共同体)” にパワーを
ニュータウン内の既存のエリア相互の競争は、一般の都
市に比べてより深刻である。新しい居住環境の継続的な
供給のために、既存のエリアには経済的たち遅れや移住
の問題が身近に迫っている。そして、社会的連帯の乏し
い脆弱なエリアでは、それが急速に、地区を衰退させる
場合がある。ニュータウンは、この競争問題を適切に管
理する方法を必要としている。
⑤ 第4位:アイデンティティ・ギャップ
ニュータウンには強力な都市のアイデンティティが求め
られる。自らの環境にアイデンティティを感じる住民の
存在こそが、集合的な熱意を生成し、新たな活動を推進
するために重要となる。しかし多くのニュータウンが機
能主義都市計画の時代に建設されたために、アイデンテ
ィティの感覚は重視されていない。ニュータウンはより
多くの象徴(Icon)を必要としている。より豊かなアイ
デンティティと市民の誇りを創りだすような、都市再生
へのアプローチを確立することが求められている。
⑥ 第3位:社会的多様性への対応の停滞
ニュータウンに新たに形成されつつある社会的多様性は、
異なるタイプの住宅、施設、レクリエーションエリア、
経済活動スペースや文化的施設などを必要としている。
しかしながら、ニュータウン内に新たな社会的、文化的・
経済的開発、その他の開発のためのスペースを見いだす
ことは容易ではない。緑を犠牲にすることなく、ニュー
タウンの既存の都市環境のなかに、より豊かな空間の多
様性を創出することが求められている。
⑦ 第2位:新たなプロフェッション
オールド・ニュータウンの開発には、ニュータウンの新
たなエリアを開発するのとは異なる新しい技術が必要と
される。また既存の都市の開発は、原野に建設するのと
は違い、広範囲の異なる利益を考慮に入れることを意味
している。さらに既存の都市の開発にはより全体論的な
(holistic)アプローチが必要とされる。社会的、経済的、
空間的領域を統合した戦略が、空間戦略だけの時代にと
って代わらねばならない。
⑧ 第1位: “ハート”を持つこと!
都市にはその成長・変化とともに絶えず適合しつつ成長
する「心臓部」としてのセンターの存在が欠かせない。
センターの個性化及びセンターを支えるインフラストラ
クチャーの継続的改善は、ニュータウン再生における最
重要課題と言ってよい。多くのニュータウンでは、中心
と周囲の住宅地の間が明確に区分され、長期間の経済情
勢の変化に応じてその機能を変化させる「移行ゾーン(
transition zone)」(多くの普通の町には存在する)が存
在しない。ニュータウンの心臓部の開発とともに、そう
した移行ゾーンを創りだす試みが必要とされている。
5-4 イギリス:ニュータウン政策の新展開
このニュータウン物語の最終章に、ニュータウン誕生の
地であるイギリスの近年の状況に触れておくこととした
い。
5-4-1 下院レポート
『ニュータウン:その諸問題と将来』
イギリスのニュータウンは、過密化したインナーエリア
から移住した多くの住民に、よりよい住宅と雇用、アメ
ニティと生活質を提供するという重要な社会的使命を果
たしてきた。また多くのニュータウンがダイナミックな
経済活動によって、各地域の成長センターとして経済を
牽引する役割を担ってきた。しかし現在では、その多く
が重要な問題に直面している。2002年、イギリス議会下
院(House of Commons)のTransport, Local Government
and Regions Committee は、様々な課題を抱えるニュータ
ウンの状況に着目し、調査を開始、50に及ぶ関係団体
の意見書や各自治体からの意見聴取などを経て7月に報
告書 “The New Towns: There Problems and the Future”を
とりまとめた。以下にその概要を示すこととする。
① ニュータウン-成功、異なる状況及びその欠陥
・ニュータウンはそのデザインが示すように多くの共通
点を持ち、共通の問題を抱えている。他方では、それ
ぞれの経済的状況に代表されるように幅広いバリエー
ションも存在する。
・多くのニュータウンがめざましいビジネス投資を生み、
経済活性エリアを形成している。特に南東部地域のニ
ュータウンはロンドン周辺の経済成長の恩恵を被って
いる。一方で、地域間の経済格差を反映し、北部・中
部イングランドのニュータウンでは高いレベルの失業、
住宅需要の低迷、貧困エリアの集中が見られる。
・ニュータウンはもはや「ニュー」ではない。いまや莫
大な新規投資と再開発が必要とされる状況にある。住
宅の建設素材は実験的で基準を持たず、しばしば低品
質で、幾つかのエリアでは完全に撤去すべき状況にあ
る。インフラストラクチャーもまたアップグレードを
必要としている。
・ニュータウンのマスタープランは、いずれも大規模な
オープンスペースと低密度開発を指向するもので、住
居は職場やショッピングから隔離されている。低密度
故に自動車利用が避けられず、今日では持続可能とは
考えられない。
それにしても、「ハートをもち」、「アイデンティティ
形成」を住民に求められてもどうすればいいのか戸惑い
覚えるのではないだろうか。「住めば都」(”Home is
where you make it.”)というたとえが浮かび、「どうすれ
ば "都" にできるのか」との問いかけがやってくる。
職に重きを置けば、ベットタウン化し、職を失えば、新
しい住居へ移住するか、遠距離通勤を余儀なくされ、職
なくば、食なく、食なくば家族は逃散するしかない。そ
こを踏みとどまって、はじめて、"強いアイデンティティ"
が、"強い個性"が形成されるのだろうとも思う。わたし
(たち)は、この「ロスト・ダブルスコア」中にリスト
ラに合っても、この地で転職し「良き納税者」として頑
張っておられる方々を見てきいる。そんな環境があれば
こそ、ひとりの市民としての"誇り"が醸成されるのだと
も思う。
この項つづく
【脚注及びリンク】
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- 田園都市 Wikipedia
- "The New Towns: There Problems and the Future”
Department for Communities and Local Government,
2002.11.21 - 日本エシカル推進協議会(Japan Ethical Initiative) -
エシカル日本 - 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
活用の前史として― 佐々木孝文 2015.06.26 - 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
奥村誠 2015.10.15 - 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
2017.01.12 - 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
- 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也 - 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
- 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
45、2003.7.8 - 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
宮﨑洋司市 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 03 - 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度全
国市長会) 中島一 2005.05.09 - 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26 - アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー
ス - <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
北新聞 2016.01.28
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