田園城郭都市構想 22

2017年02月19日 | 湖と城郭都市

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-
6.世界遺産登録に向けた取り組み
7.街道と湖上交通と都市形成



6-1 世界遺産登録制度
6-2 世界遺産登録と国内事例
6-3 「白川郷」の場合
6-3-2 「白川郷」における景観保全の現場 
6-3-3 世界遺産登録の影響―
           規制強化の考察を中心に

③ 「白川村荻町伝統的建造物群保存地区の景観
  評価に関
する調査・研究」報告会

報告会の後半では、斎藤が、これまで荻町地区で景観をよ
り良
くするために行われてきた修景行為の問題点一「オリ
ジナルな
部分」と「修景した部分」の境界が曖昧で、「文
化財および世
界遺産としての価値」が見えにくくなってい
ることなど――
を、ヴェニス憲章(正式名称「記念建造物
および遺跡の保全と修復
のための国際憲章」、1964)の条
文(特に第12
条)とドイツの歴史的地区における修景の事
例を引き合いに出しながら説明
した。

 
ヴェニス憲章 第12条  欠損部分の補修ば,それが
 全体と調和して一
休となるように行わなければならな
 いが,同時に,オリジナルな部分と区別できるように
 しなければならない
。これは、修復が芸術的または歴
 史的証跡を誤り伝えることのないようにするためであ
 る。

④ 報告会の意義

この報告会の意義を改めて考えてみる と、それは何 と言っ
も「白川郷」の「価値」を具体的かつ厳密に吟味して見せ
たところだといえる。換言すれば、「白川郷」の何を保存
し、何を捨てるべきなのかを明言
したということである。

「白川郷」では、これまでこのようなことが試みられたこ
とはなかったし、日本の他の「伝建地区」の調査や民俗文
化財などの調査でもおそらく行われたことはないのではな
いかと思われる。

この背景には,荻町地区の人々に景観の「価値」を啓蒙し
ようという意志の存在が見受けられる。また、「伝建地区
」を分析する際に、ヴェニス憲章などのグローバルスタン
ダードを持ち込んでいるという点も重要だと思われる。
「白川郷」が単なる「伝建地区」の一つの地区ではなく世
界遺産であるがゆえに,このような分析が有効かつ必然で
あるかのような印象を与えていると感じられた。実際、こ
の報告は荻町地区の人々に少なからぬ衝撃を与えたようで
ある。

とりわけ、「合掌を真似たデザイン」の建築物をはじめと
して、これまで修景行為として行ってきたものが価値を
阻害する
景観要素」として次々と槍玉にあがったことに対
する反響が大きかったと思われる。すなわち、これまで
〈景観の「改善」〉として積み上げてきた行為が、〈景観
の「悪化」〉に繋がっていると指摘されたことに、荻町地
区の人々は驚き、 戸惑い、そして怒りを示したのである。
次項では、 その声をいくつか拾って紹介したい。

⑤ 当惑する人々

資料1は、報告会の質疑応答の時間に出た住民からの質問
や意見などを書き出したものであ
る。Aさん、Bさんの意
見および質問は、これまで修景として行ってきた「合掌造
り」に似せた建
築物や工作物(例えば、写真2のようなも
の)が「価値を阻害する景観要素」とされ、「『合掌造

とは違うデザインで、周囲と調和のとれたものにすべきだ
と言われたことに関するもので
ある。参考までに、それぞ
れに対する斎藤の回答も併記した。


ここでの回答で、斎藤が「合掌を真似たデザイン」のもの
をつくってはいけない理由を、真似たものをつくると「ホ
ンモノ」や
「オリジナル」が目立たなくなるからだと述べ
ているが、これは報告会の中で斎藤がヴェ
ニス憲章等を用
いて説明したことの繰り返しである。そしてこれが、先述
した1994年に行われた「白
川村荻町伝統的建造物群保存地
区保存計画」の改訂で、「ただし、かってあった家屋を科
学的根
拠に基づいて復原するもの以外は、合掌造り家屋に
似せたものを造ることはできない」という文
章が加筆され
た理由の
一つだと考えられる。

しかし、ここでのAさん、Bさんをはじめとす
る荻町地区
の人々の反応から、先の「白川村荻町伝統的建造物群保存
地区保存計画」の改訂内容
が、荻町地区の人々の間で周知
されていないことがわかる。それはすなわち、この改訂が
荻町地
区の大部分の人の了解なしに行われたことを意味す
る。ただ、そうではあっても、すでに明文化
されたもので
あるため、今後はこれが従うべき基準となっていくことが
予想される。

Cさんの発言は、「伝建審」のようないわゆる行政側の、
一貫性のなさ――あるいは実質的な
発言力および指導力の
欠如――と世界遺産後の変化を指摘していて非常に興味深
い。
なお、「聡明な『伝建審』委員さん」とは斎藤のこと
である。D
さんのものは、この報告会終了後、私個人に話
してくれた言葉である。この言葉の背景には、
斎藤・松井
の発表時間(1時間半程度)に対して質疑応答の時間(30
分弱)が短く、ほとんどの
人が発言できなかったというこ
とがある。

また、Dさんが自宅前で使用している周囲をコンクリ
ート
で固めた水路が「価値を阻害する景観要素」としてスライ
ドで紹介されたことも無関係では
ないと考えられる。しか
し、それゆえに、この発言には当事者としての率直な思い
が反映されて
いて、胸を打つ。

と、登録と住民の意識の変化を報告しているが、さらに、
考察がつづく。

                    この項つづく

【エピソード】

 

● 琵琶湖博物館

人と琵琶湖の歴史: 利用のはじまり

 

【脚注及びリンク】
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 世界遺産の保全と住民生活-「白川郷」を事例とし
    て-」才津祐美子、福岡工業大学、環境社会学研究
    (12)、 23-40、2006-10-31)
  3. NPO法人 彦根景観フォーラム 第4回世界遺産を目
    指す彦根の課題
     2008.02.29
  4. 世界遺産所在自治体の保全と観光活用に関する取組
    事例集 国交省観光庁 2014.10.24
  5. 世界遺産登録による経済波及効果の分析 えひめ地
    域政策研究センタ 2007.01.11
  6. 世界遺産登録と持続可能な観光地づくりに関する一
    考察『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会)
    新井直樹 第11巻,第2号,2008年9月
  7. 世界遺産を活用した観光振興のあり方に関する研究
    運輸政策研究所 第35回 研究報告会 小室充弘
    2015.08.05
  8. 世界遺産登録に向けた取り組み(2014年度)彦根市
  9. 世界遺産に登録されるまで|世界遺産検定 NPO法
    人 世界遺産アカデミー
  10. 高句麗平壌城の都市形態と設計 閔徳植、 国際日本
    文化研究センター学術リポジトリ
  11. 松本市の都市計画 松本市
  12. ひこにゃんがいてもダメ? 彦根城はなぜ世界遺産
    になれないのか 週刊朝日 2013年6月28日号
  13. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー前編 2007.03.02
  14. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー後編 2007.03.09
  15. 第1回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.05
  16. 2回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.07
  17. 第3回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.19
  18. 第4回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.26
  19. 第8次彦根市交通安全計画 2012,03.22
  20. Core Strategy (2013) - Milton Keynes Council
  21. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  22. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  23. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  24. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  25. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  26. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  27. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  28. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  29. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  30. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  31. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  32. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  33. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  34. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  35. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  36. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  37. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市 橋梁長寿
    命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  38. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  39. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  40. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  41. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  42. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  43. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  44. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  45. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  46. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  47. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  48. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  49. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  50. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  51. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  52. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  53. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  54. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  55. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  56. 彦根市立図書館|簡易検索
  57. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  58. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と展望
    2014.11.26
  59. アウガ Wikipedia
  60. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  61. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  62. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー
  63. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北
    新聞 2016.01.28
     
      

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