「太陽を灼いた青年」(井本元義 著)を読む。とても面白かった。
最近、こんなに面白い本はなかった。とはいっても、これは小説やエッセイとなどではなく、
詩人アルチュール・ランボーの足跡を、ランボーを深く偏愛し続ける著者が追った評伝というべきもの。
もともとランボーには、個人的に興味があった。一体、彼に興味を抱かない人間などいるだろうか。
十九世紀後半のパリの文壇に、きらめく彗星のように現れた天才少年。同じく時代を代表する詩人ヴェルレーヌとの同性愛と、銃撃と共に終わった彼との友情。「地獄の季節」「イルミナシォン」といった作品を残し、わずか二十歳にして、詩作と決別――それからのちの、ランボーの人生は、放浪に続く放浪だったことは御存じのとおり。
遠くジャワの外国人部隊に入隊したかと思えば、そこを脱走。アデンをへて、アフリカはアビシニアへ。この時、ランボーはまだ二十六才くらいだったと「思うのだけれど、彼はそのアビシニア(現代のエチオピア)のハラールという土地で、以後十一年もの間、貿易商人として生きるのだ。
白人など稀な、アフリカの闇に、身を潜めるようにして。まったき孤独のうちに。
そして、膝に腫瘍ができ、身動きもできなくなった末に、フランスへ戻る。ランボーが憎み、とうとう最後まで離れることができなかった故郷と家族の元に戻るのだが、すでに、その時、彼の片足はなかった。そして、結局マルセイユの病院で、激しい痛みと苦しみのうちに亡くなるのだが、これは1891年のことで、ランボーは37才だった。
作者の井本氏は、「ディカプリオは、ランボーのイメージに合わない」とおっしゃっておられるのだけれど、私には、二十代半ばの頃観た、映画「太陽と月にそむいて」の印象がとても鮮やかなのだ。ランボーを演じたレオナルド・ディカプリオが、手に負えない不良少年の、しかも茶目っ気のあるランボーを生き生きと演じていたのが、今も目に浮かぶ。
そして、大学時代、学校の図書館で手にとった本に、上記の「太陽を灼いた青年」の表紙にもある南国の樹影の前に佇む白い服の男を写した写真があって、「これが、アフリカでのランボーなんだ」と、強い印象を受けたことがあった。これも表紙の右側にある、美少年ランボーの写真。この少年が、どのような魂の旅の果てに、こんな修行僧のように痩せた、黒い肌の男に変わったのだろう?――と。
「ついに見つけたぞ
それは何、永遠だ。
太陽と溶け合った海だよ」
あまりに有名な、彼の詩。この詩にランボーの生涯が集約されていると思うのは、私だけだろうか? ほとんど「放浪病」としか思えない、少年時代からの家出や旅。ランボ―は、何かを求め、動き続けずにはいられなかったのだと思う。例え、それが自身の破滅をもたらすものだったとしても。
ドラマチックな人生を送った人々の物語で、一番興味深く、心を打つのは、彼らの晩年である。だからこそ、アフリカの荒涼とした都市ハラールに、ランボーが何を考え、長い月日を過ごしたのかは、多くの人々の想像力を刺激するのではなかろうか?
銃を売ったりする武器商人として生きながら、アフリカの夜々、ランボーは何を思っていたのだろう? 砂漠からの風が吹きすさび、ハイエナの鳴き声さえ聞こえる。夜空だけは、美しい満天の星々の下で、手製の楽器ハープを弾く。
井本氏もおっしゃっていられるが、ランボーの後半生は、彼が詩を捨て去ったとしても、それ自体が、詩そのものなのだ。
p.s この本の中で、ずっと昔から、神秘的に魅了されてきた「アデン」という土地の写真を見ることができた。イエーメンの港湾都市だと言う。これも大学時代、古本屋で見つけたポール・二ザンの「アデン・アラビア」という小説のエキゾチックな響きに魅了されて購入したものの、読まずじまいだった。アラビアの地にある、ナツメヤシと豊かな港があるに違いない街ーーこの名前がかくも魅惑的なのは、エデンというもう一つの素晴らしい土地の名とよく似ているからかもしれない。
この本は、いつかなくしてしまっのだが、ぜひきちんと読みたいもの📚
ポール・ニザンの「アデンアラビア」の中の、「僕は20歳だった。それが人生で1番美しい季節だなんて誰にも言わせない」の一文は、私のエッセイの先生が好きだとおっしゃっています。
私は「アデンアラビア」は、読んだことがありません。
でも、アデンアラビアという地名のロマンチックな響きにはそそられるものがあります。
ランボーの生涯も、ロマンがありますね。
北アフリカと聞くだけで、外人部隊やカスバを思い、何ともいえない郷愁にとらわれます。
デュカプリオが、ランボーを演じた映画も、娘とビデオをレンタルして観たことがあります。ベルレーヌの詩も好きです。
英国の詩人、キーツの「ナイチンゲール」も好きですが、キーツもランボーも、夭折しています。ポールニザンも、若くして戦死しているし、サンテグジュペリも、飛行機事故で亡くなり、天才たちは、最後まで不幸な人生でした。悲しいですね。
ノエルさんとは、文学や映画のことでしたら、いくらでもお話できそうです。
今度、「ココリコ坂から」も放映しますね。私は「耳をすませば」「思い出のマーニー」についで、「ココリコ坂から」が好きです。
ランボーは、いかにもルーさん好みだろうなあ…と思います。でも、「アデンアラビア」もお好きというのには、ビックリ!
作者のポール・二ザンはサルトルの学生時代の親友ですが、この他の作品は知られていないし、結構通好みの作家ですよね(それにしても、「二十歳が人生で最も美しい季節だなんて、誰にも言わせない」の名文がお好きとおっしゃるんなんて、ルーさんのエッセイの先生は、なかなかの方なのですね📚)
結局、この本は見つかりそうにないので、今度Amazonで、池澤夏樹さんが編集している、世界文学全集の新しい版から、購入してみようかな? と思っています。
そして、ランボーは、レオ様が素敵であります。
お嬢様にも、どうぞよろしく。
それでは、お休みなさい。
ノエル