虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

クマにあったらどうするか-アイヌ民族最後の狩人

2006年02月11日 | 
姉崎等/聞き書き 片山龍峯
木楽者

 アイヌ民族最後のクマ撃ち猟師、クマの行動を知り尽くした姉崎等氏の語りの聞き書き。

 クマにあったらどうするか…私の場合は、もう絶対会わないようにクマのいそうなところには行かない、ということしかありません。人間自分の限界は心得て生きなきゃクマにも迷惑です。ところが昨今はクマさんが人里に現れて、人家や畑にあらわれてはあえなく撃ち殺されるというようなニュースを聞くようになりました。
 結論から言ってしまえば、クマの居場所を人間が無遠慮に侵食しつづけた結果、人間とクマの適切な距離が保てなくなったという現実が、わかっていることですがあらためて認識させられます。もともとが、お互いの気配を感じながらすれ違うようにして生きてきたクマと人であるのに、照葉樹を伐採しクマの食料にならない針葉樹を植林する、殺虫剤を撒き虫を殺して実りをも殺す…クマの生活圏と食料を奪いつづけ、しかも山中にゴミと食べ残しを残すことでクマを人里に誘う。どうしても結論は人間の貪欲さと無神経に行き着いてしまう。

 この本は、北海道の猟師で、クマ撃ちの名人でしかもアイヌの伝統的な方法で送りの儀式も行っているという伝説の猟師、自ら「クマが私のお師匠さん」と言う姉崎等氏の貴重な体験と知識をただ時の流れに任せて消してはならじという片山氏の熱意で著わされた本であり、姉崎氏の独立心の強い、毅然とした人格とその人生が見事に表現されています。
 アイヌの母と和人の混血で、どちらからも受け入れられないような子供時代から、独力で山自体、クマ自体を観察し、学ぶことで猟師として必要なことを獲得し、大学の研究者が発信機をつけたクマが行方不明になっても、そのいく先を見とおしてしまうほどの目を持った達人になるまで。この本は姉崎氏の伝記というわけではないのだが、読んでいてそのひととなりへの畏敬に思わず正座してしまいます。