二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

残暑きびしき折り(ポエムNO.88)

2012年09月16日 | 俳句・短歌・詩集
生まれてきたからには 死なねばならない。それが最大の仕事 最後の大仕事である。だれにとっても。ある日一人の女性から手紙が届いた。「二十五年ぶりに お逢いしましょう。もしお嫌でなかったら」と書いてあった。「残暑きびしき折り お元気でお過ごしでしょうか」とも。あのころは白萩のような清楚な女性だったけれどいまはどうなんだろう。彼女がぼくと別れたあとしばらくたって精神病院に入院したことをある人が知らせてくれた。わずかなあいだだが、生活をともにしたことがあった。入籍などせず場末のうらぶれた2DKのアパートが ぼくらの“愛の巣”だった。 そのアパートが取り壊され 他の建物が建てられているのを知ってから すでに十年以上がたっている。 . . . 本文を読む
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不思議な消しゴム(ポエムNO.87)

2012年09月16日 | 俳句・短歌・詩集
なにをするあてもなくぼくはこの世にやってきていつのまにか六十年がすぎていった。「あてもなく」と「いつのまにか」のあいだに無数の栞がはさみこまれている。それをたよりに 過去のページをめくってきみがいた街角をたずね歩く。むろんぼくだけでなくぼくの友人も この地球も 六十年分 歳をとったのだ。きみはきみの耳を信じているんだろうね。 そして眼を。そういった感覚器官を杖にしてぼくはいまことばの探査船を その六十年の茫漠とした海の向こうへ送り出す。 . . . 本文を読む
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感傷的なワルツ(ポエムNO.86)

2012年09月16日 | 俳句・短歌・詩集
不愉快な出来事がつづいたのでそれを忘れたくてあびるほどアルコールを飲んで血を少し吐いたことがあった。あれからの三十年が とっくの昔に沈没した戦艦のようにぼくの後ろにそびえている。あんなことがあったし こんなことがあった。いいじゃない そんなこと。三十年も昔にとって返し あやまるわけにはいかないのだから。追憶の黒い塀のきわを しろいものが影のようにかすめて飛んでいる。それがサギソウなのか ほんもののサギなのか見分けがつかなくて考え込んでいる。そのころぼくは未経験な若い伍長だったろうか 一介の二等兵だったろうか?どっちでもいいけれど 思い出のさきはいつだってなにかの行き止まりなのだね。 . . . 本文を読む
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1950年12月2日の“セリオーソ”

2012年09月16日 | Blog & Photo
このあいだ、BOOK OFFの散歩で手に入れたCDの中に、夭折したピアニストのCD2枚組がある。《12月2日朝、医師による血の交換を辞退。退出する医者ディボア=フェリエルにEMIから送られてきたばかりのバッハのパルティータのレコードをプレゼントする。ベートーヴェンのヘ短調弦楽四重奏曲に聴き入る。その後。静かに息を引き取る》(諸石幸生さん作成の年譜より)この日、33歳で亡くなったピアニストの名を、ディヌ・リパッティという。リパッティはこれまで、薄命の天才ピアニストとして名だけは知っていたが、わたしにとっては、未体験のピアニストだった。この2枚組CDの収録曲は、以下の通り。CD1)グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調シューマン/ピアノ協奏曲イ短調モーツァルト/ピアノ・ソナタ第8番イ短調 他 . . . 本文を読む
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