二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

バブル、青春の夢、恋 ~「グレート・ギャツビー」を読む

2023年09月15日 | 小説(海外)
■フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」小川高義訳(光文社古典新訳文庫文庫 2009年刊) 最初に結論めいたことを述べておくと、「グレート・ギャツビー」は、わたしの独断と偏見によれば、世にいわれるような傑作ではなく、Aの下または、B上あたりのランクであろう。もちろん秀作は秀作なのだ。だらだらと終わりそうで終わらない結末がよくない。 フィッツジェラルドは“書きすぎて”しまった。 《絢爛豪華 . . . 本文を読む
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短篇小説の神さま・・・なのか ~モーパッサンの新訳シリーズとその周辺

2023年08月15日 | 小説(海外)
■モーパッサン傑作選「脂肪の塊/ロンドリ姉妹」太田浩一(光文社古典新訳文庫 2016年刊) 光文社古典新訳文庫のこのシリーズは、 1. 脂肪の塊/ロンドリ姉妹 2. 宝石/遺産 3. オルラ/オリーヴ園 この3点セットとなっている。新潮文庫からは、3点セットが青柳瑞穂訳でずいぶん昔からラインナップされていた。それを意識した選択であろう。 さて本編「脂肪の塊/ロンドリ姉妹」であるが、結論だけさき . . . 本文を読む
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ホリー・ゴライトリーという名の娼婦 ~「ティファニーで朝食を」を読む

2023年06月15日 | 小説(海外)
■「ティファニーで朝食を」トルーマン・カポーティ(村上春樹訳 平成20年) 新潮文庫 高級娼婦と作家志望の青年のロマンチックコメディーというのが、一口にいって、この小説の内容である。 何しろ14歳で結婚し、本人がいうには、それから11人の男と性的関係を結んだ。お金をもらって体を高く売り、それによってかなり贅沢な生活をしている。 映画で主演した、清純派女優のオードリー・ヘプバーンに、皆さん騙され . . . 本文を読む
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“怒り”が意味するもの   ~スタインベック「怒りの葡萄」を読む <その2>

2023年06月07日 | 小説(海外)
追いつめられながらヒューマンな心を杖にして必死で生きようとする家族たちを見て、読者は文学というものが、何を達成しうるかを考えずにはいられない。家族の中心にいて、その核心を鋼のように支えているのは母ちゃんである。ほとばしる愛情とともに、エネルギーが滾々と湧きあがる。 父ちゃんは故郷を離れてから、根を絶たれた植物みたいに腑抜けになってしまったため、一家の長は母ちゃんが果たす。 作中人物に注ぐ、スタイン . . . 本文を読む
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人間にとって“尊厳”とは  ~スタインベック「怒りの葡萄」を読む <その1>

2023年06月07日 | 小説(海外)
■スタインベック「怒りの葡萄」(上・下巻)黒原敏行訳 ハヤカワepi文庫 2014年刊 重たい小説である。 しかも、当時の社会的経済的な問題や、差別、死などといった、考えたところで、答えの出ないものばかりを、具体的にストーリーに溶け込ませて表現しようとしている。容易ならぬ長篇小説である。 上巻447ページ、下巻422ページ(ハヤカワ文庫) ことに“オーキー”という差別用語に、ガツンと頭を殴られ . . . 本文を読む
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読者を感動させるということ ~マクラウド「冬の犬」の愛しさ

2023年05月15日 | 小説(海外)
  ■アリステア・マクラウド「冬の犬」中野恵津子訳 (新潮クレストブック2004年刊) むむう、堪能させていただきました、原本「Island」の下巻「冬の犬」。 《馬のひづめから舞い上がる、白い星のような雪の美しさ。遠い過去から受け継がれる死の記憶を、心静かに胸の洞窟におさめる人間たちの哀しさ。 本書は、この世に生きるものは皆、人間も動物も、与えられたそれぞれの生をただ生きてゆくしかない、と . . . 本文を読む
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グロテスクなものとしての人間たち ~シャーウッド・アンダーソンの周辺

2023年04月25日 | 小説(海外)
■シャーウッド・アンダーソン「ワインズバーグ、オハイオ」上岡伸雄訳(新潮文庫 平成30年刊) アンダーソンといえば、「想像の共同体」で有名なベネディクト・アンダーソン( 1936-2015)という学者もいるが、今日の話題は、そうではなく、小説家シャーウッド・アンダーソン(Sherwood Anderson, 1876~1941年)を取り上げる。 昔むかし、たしか橋本福夫訳で新潮文庫から出版され . . . 本文を読む
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思慮深く、愛情深く ~「灰色の輝ける贈り物」にしびれる

2023年04月16日 | 小説(海外)
■アリステア・マクラウド「灰色の輝ける贈り物」中野恵津子訳(新潮クレストブック 2002年刊) 物語の大半が過去の話である。だから“哀惜の念”が、これらの短篇群を覆いつくしている。アリステア・マクラウドは、老齢になってから読むのにふさわしいといえる。 背景となる時間の地層は、一世代ではなく、二世代、三世代、あるいはもっと分厚い幅の中に横たわっている。 書かれている内容も、作者のスタイルも、とき . . . 本文を読む
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野菜汁のたのしみはそれが熱いこと ~「イワン・デニーソヴィチの一日」を読む

2023年03月25日 | 小説(海外)
■ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」木村浩訳 新潮文庫(昭和38年刊) ロシア文学に少しでも関心があれば、この名高い小説を知らないという人はいないと思うけれど、一応BOOKデータベースを引用しておこう。 《午前五時、いつものように、起床の鐘が鳴った。ラーゲル本部に吊してあるレールをハンマーで叩くのだ――。ソ連崩壊まで国外に追放されていた現代ロシア文学を代表する作家が、自らが体 . . . 本文を読む
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過激かつ非情な“ぼくら”の物語 ~アゴタ・クリストフ「悪童日記」を読む

2023年03月18日 | 小説(海外)
   (表紙がかわって値上がりしたけど、中身はまったく違わない) ■アゴタ・クリストフ「悪童日記」堀茂樹訳 ハヤカワepi文庫2001年刊(原本は1986年パリ) 友人から感想を聞いたことがあったので、驚きはなかったが、衝撃がなかったといえば嘘になる。 しかし、読み了えたいまでも、作者の“位置”というのがよくわからない。行方不明の作者を探す小説なのであろうか? これまで読んだ、どんな作品とも . . . 本文を読む
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