二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

感傷的なワルツ(ポエムNO.86)

2012年09月16日 | 俳句・短歌・詩集

不愉快な出来事がつづいたので
それを忘れたくてあびるほどアルコールを飲んで血を少し吐いたことがあった。
あれからの三十年が とっくの昔に沈没した戦艦のように
ぼくの後ろにそびえている。
あんなことがあったし こんなことがあった。
いいじゃない そんなこと。
三十年も昔にとって返し あやまるわけにはいかないのだから。

追憶の黒い塀のきわを しろいものが影のようにかすめて飛んでいる。
それがサギソウなのか ほんもののサギなのか
見分けがつかなくて考え込んでいる。
そのころぼくは未経験な若い伍長だったろうか 一介の二等兵だったろうか?
どっちでもいいけれど 思い出のさきはいつだって
なにかの行き止まりなのだね。

ハコベが繁茂する小川のほとりを
荷車をひいて あの日仲がよかったおじさんが通っていく。
小さな木の橋を渡ればまたおじさんに遇えるってのに
片意地なぼくが それを拒絶している。
たまにはドビッシーの「美しい夕暮れ」かシューベルトの「セレナーデ」を聴いて
素直な気持ちになれればいいのだけれど。
西空では乱れ雲がきれいなんだろうねその季節 きみがいるあたりは。

だけどおそらくは メヌエットよりスケルツォがお似合いなのさ。
なにもかもが 大事なことはすべて終ってしまったというように
遠くから なにもかもが・・・こっちを向いて 冷ややかなまなざしをそそいでいる。
もうあんなには酒は飲めないしね きみだって。
おどけて笑わせるってのも 疲れるものだ。
歳をとると したいことよりしなければいけないことがやたらふえるしね。

現在・過去・未来はメビウスの輪のようにつながっていて
いつか土にかえるってのはわかってはいるけれど
なにもかもが なんというか隣の犬みたいに関心がもてなくて。
ぼくはこれまで数人の男の首をしめて殺してきた。
感傷的なぼくがそこでため息をついている。
「こっちじゃなく あっちへいけばよかった」と。

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