先日古本屋へ手塚治虫を探しにいったとき、手塚さんほか虚子の文庫本を2冊買ってきた。そのうちの1冊が「虚子五句集」。
「六百五十句」「七百五十句」とともに、「慶弔贈答句集」126句が収められていた。
これがおもしろい♬ そうか、虚子の神髄がこういうところにあったのだ。
編集・解説は大岡信。初句索引、季題索引が付録で付いている。
「行春やおもちやに交じる黄楊(つげ)の櫛」
には前書きにつぎのよう . . . 本文を読む
■高濱虚子「高濱虚子集」現代俳句の世界1 深川正一郎選(朝日文庫 昭和59年刊)
ほかの俳句の文庫本といっしょに、書棚からこぼれてきた。何気なく手にとって、澁澤龍彦の「物の世界にあそぶ」という序文を読みはじめたら、これにいささか圧倒された。
何だって?
高濱虚子に澁澤龍彦をぶつけただけで、不甲斐ないが「おっ♪」と唸ってしまった。
略年譜を齋藤愼爾さんが編集しておられるので、齋藤さんが仕掛け . . . 本文を読む
(再現された萩原朔太郎の書斎)
今日の仕事はこれで終わり
では
おやすみ。
・・・と 日本で五本の指に入る偉大な詩人・田村隆一は
「1999」という詩で 蟻について書いている。
蟻にびっくりしているのだ。
一日22時間寝ていて 起きて働くのはたったの2時間。
そのことに心底驚いて
「おれも蟻のように眠っていたい」と感嘆している。
そうか せっせと働いたからな ミステリの翻訳や . . . 本文を読む
(写真と詩のあいだに、具体的な関連はありません)
風が通り過ぎていくように
時間の奥の沼から
小さな神様の跫音が聞こえてきた。
遠くでサギが鳴いている
夜どおし赤い眼を燃して
つめたい沼に立ち通すのか……
神さまは一人二人ではなく
たくさん
たくさんたくさんいるのだ。
サギがわいわい がやがやあつまってきた。
つぎからつぎ。
赤い眼をした小さな神様たちよ。
どこからきて
ど . . . 本文を読む
ああ なんだか朝からくたびれている。
そうさ それが年をとったってことさ。
朝から そして一日中
くたびれている。
輝かしい光と光のようなものは
夢の覚めぎわに脱ぎすててきた。
二十歳になったアルチュール・ランボーのようにね。
そうして一日中くたびれている。
梶井さんがいう冬の蠅。
いやおうなしにそれと似通ってきた。
そうだよ よたよた
よたよた・・・とね。
だれもが七十を過ぎたらこうな . . . 本文を読む
(平成29年ころ撮影)
おーい おい。
そこをゆくのはだれ?
だれだれ だあれ。
いつか離ればなれになってゆくんだね。
父とも母とも いずれは。
いずれは離ればなれになる。
そんなに遠い未来ではなく
どんどんと“その日”は近づいてくる。
独りだから独りになる。
猫も犬も その他の生きものはすべて
そういう運命の下にある。
独りで死んでゆくのだ。
このアスパラガスやジャガイモはう . . . 本文を読む
(画像はわが家のコミスジ)
幸せってものは
じつにささやかなものだと気がつくまで
何十年も要した。
手があって足があって
あまりパッとしないが顔もある。
さっきからスズメどもが鳴いている
ちょこまかと移動しながら
いつもあわただしい隣人たち。
生い茂る草むらの向こうからグラジオラスの黄や赤がこっちを見ている。
あれは昔よく知っていた女性のだれか なのだ。
日常の時間が見えない川 . . . 本文を読む
ああ あ。ああ あ。とつぶやきながら
深夜のベッドで寝返りを打つ。
そうして 深い淵のようなところから
這いあがったり ずり落ちたりしている。
そこに横たわるきみよ
いいかげんにしたらどうかね。
何年こんなありさまですごしている。
何年?
ごわんごわんとブルドーザーのようなものが通りすぎていった。
その轟音がいまでも耳元で響いている。
ムクドリや女たちのざわめきや木の葉をゆらす風。
反響はも . . . 本文を読む
数日前にBOOK OFFへいったら、こんな本が置いてあった。
「宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人」今野 勉 (新潮文庫)
なるほど、そうでしたか、知らなかったけど、文庫になったのが令和2年。
中古好きのわたしが知らなくてあたりまえだなあ(笑)。
どちらかといえば、童話より詩の方が好きである。
大学時代に「夜行列車」という詩の同人誌をやっていたころ、友人たちはほとんど全員宮沢賢治を、緻密によく . . . 本文を読む
ふと気がついた
ことばにも舌さきがあるんだと。
本を読んでいると 否応なしに
否応なしにそれがわかる。
近ごろよくというか ほぼ毎日本を手にして帰ってくる。
何だ またか!
・・・と 自分で自分にあきれている。
五千冊か六千冊の本が
わが家のあちらこちらに積み上げてある。
本に遠慮しているわけじゃないが
ぼくの居場所がだんだん狭くなる。
何てこった。
ことばの舌さき。
本物の舌とは違って
ず . . . 本文を読む