二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

戦艦武蔵(新潮文庫)    吉村昭

2010年02月28日 | 小説(国内)
個人的な思い出からはじめることをお許しいただこう。 というのも、わたしは、この本のラストシーンに、およそ40年かかって、たどりついたからである。 中学2年の春であったか、宮下隆行くんという友人がいて、「おもしろから読んでみたら」といって、わたしに何冊かの書物を貸してくれた。 そのうちの2冊は、たしかカッパノベルスの三鬼陽之助の財界小説(あるいはノンフィクション)、もう1冊が、この「戦艦武蔵 . . . 本文を読む
コメント

靖国問題   高橋哲哉(ちくま新書)

2010年02月24日 | 歴史・民俗・人類学
下らない本を読んでしまった。 あと、20ページほど残ってはいるけれど、 最後まで読んでも、虚しさがつきまとうだけだろう。 右顧左眄し、論理的な整合性にばかり気をつかい、 得票数アップを狙っている。 このようにして、肩書きも手に入れたのではないのか? (1)「感情の問題」(一章) 靖国神社は「感情の錬金術」によって戦死の悲哀を幸福に転化していく装置にほかならない。戦死者の「追悼」ではなく「顕彰」こ . . . 本文を読む
コメント

池田清編「太平洋戦争全史」     河出文庫

2010年02月23日 | 歴史・民俗・人類学
昭和史に関心がなかったけれど、小林よしのりの刺激によって、 遅ればせながらようやく気持ちが動いてきた。 本書は、日米戦争に焦点を絞って、ごくポータブルに、事実関係を叙述した一冊で、国内での政治的、政策的変動にはほとんどふれられていない。前から気がついていたことではあるが、著者の立場によって、歴史とはこれほど違った貌を見せるものかという見本でもある。 小林よしのりのレビューにも書いた通り、観察者の . . . 本文を読む
コメント

戦争論2    小林よしのり

2010年02月21日 | 座談会・対談集・マンガその他
戦争論」がおもしろかったので、この「2」を買ってきて、読むことになった。 マンガ=サブカル=エンタメというわたしの偏見を、またしても、見事に吹き払ってくれた一冊として、高い評価をあたえたい。 「第1章 同時多発テロはアイデンティティー・ウォーである」というところを読んだだけで、小林さんの主張の方向性がはっきりする。その方向性とは、乱暴ないい方をすれば、「日本人よ、ジャーナリズムを席巻しているサ . . . 本文を読む
コメント

「個と公」論     小林よしのり

2010年02月19日 | 座談会・対談集・マンガその他
本書刊行時(2000年5月)で、65万部という異例のベストセラーを記録したマンガ「戦争論」。と同時に、主としてジャーナリズム、論壇から、激しい批判にさらされた。 本書はそれに対する小林よしのりの反批判の書。 マンガではなく、インタビュー形式をとっている。 インタビュアーが、「戦争論」に寄せられた批判をつぎつぎと紹介し、小林がそれに答えるという、質疑応答からなりたっている。 わたしの得意とする分野 . . . 本文を読む
コメント

蟹工船   小林多喜二

2010年02月17日 | 小説(国内)
結論をさきにのべれば、「蟹工船」は、秀作である。ただし、ある一点をのぞいて。 その理由についてはあとでふれよう。 こういう作品が、昭和4年、24歳の青年によって書かれていたとは。 まず、本書冒頭、十行ばかりを引用してみよう。 『「おい地獄さ行《え》ぐんだで!」  二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛《かたつむり》が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。――漁夫は指 . . . 本文を読む
コメント

真贋  吉本隆明

2010年02月15日 | エッセイ(国内)
通勤経路にBOOK OFFがある。 この店には、どういう理由か知らないけれど、吉本隆明の本が、 105円でならぶことがある。眼にとまると「ほほぅ、この値段なら、買っておこう」 ・・・というわけで、吉本さんの本が何冊か、わが家に引っ越してきた。これはその中の一冊。 講談社インターナショナルの辻本充子さんがまとめた吉本さんへのインタビュー。 文の校正や編集も彼女がやり、吉本さんが眼を通した . . . 本文を読む
コメント

文学全集を立ちあげる  丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士

2010年02月14日 | 座談会・対談集・マンガその他
本書の刊行は2006年。つまり21世紀初頭という「現在」の時点で、「世界文学全集」「日本文学全集」を立ちあげるとしたら、どうなるか? 商売としては成り立たないけれど、リストだけでもつくってみようという試みである。 丸谷才一を中心に、鹿島茂、三浦雅士という博覧強記のご三方による鼎談集で、ときおりはめをはずし、放談・漫談といった趣のある、愉しい文学談義。 はっきりいってしまえば、三人とも文学的スノッ . . . 本文を読む
コメント

風立ちぬ ・美しい村

2010年02月12日 | 小説(国内)
■美しい村 堀辰雄は中学校3年生のころ、「辛夷の花」(「大和路・信濃路」所収)を教科書で読んだのが最初。 過不足のない、すぐれた紀行文として、いまでもよく覚えている。軽井沢、というより、信濃追分に未亡人堀多恵子さんが健在であることがわかり、アポイントをとって出かけていき、文芸部の機関誌に探訪記事をのせたのもそのころ。 『私は毎日のように、そのどんな隅々までもよく知っている筈だった村のさまざま . . . 本文を読む
コメント

差別論スペシャル   小林よしのり

2010年02月10日 | 座談会・対談集・マンガその他
戦前に較べると、おそらくタブーの問題は格段に減少したはずだ。 しかし、社会的なタブーは、やや見えにくくなったとはいえ、まちがいなく存在している。 人権と平等に対する人びとの関心がたかまり、それに対して過剰な権利意識が暴走をはじめたのは、いつからだろう。 小林がここでいっているように、人間社会では戦争と同じく、差別も、完全には撲滅できはしない。男女の格差も、極端なフェミニズムに走ってしまうと、これま . . . 本文を読む
コメント